みかん小説
本棚

"退職金と三百万円の借金" 第17話

浦部く、く息を吐きした。

そして、元にあった『役員特別裁量基による相殺伝票』を、両でゆっくりと、真っつに破り捨てた。

「……浦?」

川常務が目を見張る。

浦部がり、背筋を正して私に向き直った。

林静枝さん。事部を代表して、くお詫び申しげます」

は、々とげた。

の『従業員福祉貸付 借用証』は、本の預かりらぬところで作成された無効な文であると、事部として正式に認定いたします。林静枝氏に対する百万円の返済請求は、本付ですべて取りげます」

浦部……」

「そして」

浦部は、に跪いたままの佐野を見ろした。

「佐野主任。君の申しを受理する。当の事故に伴う損害賠償の残債百万円については、君からの『自発な損害補填』として正式に受領続きを取る。過の懲戒事由については、すでにの除斥期が経過していること、また現責任者による当の収束判断があったことを鑑み、問とする。……いいね」

佐野はに額を押し付けたまま、「ありがとうございます……ありがとうございます……」と子供のように泣きじゃくった。

浦部は最に、川常務に向き直った。

その表は、の独した管理職としての厳格さに満ちていた。

川常務。

広告

の管理責任、および規程の特例処理を独断でった件については、、コンプライアンス委員会へ私から報告を提いたします。役員報酬の自主返納等を含め、しかるべき処遇をご自でご判断ください」

川常務は、力なく苦笑した。

「ああ……わかっているよ、浦。すべて、私の責任だ」

常務はゆっくりとがった。

そして、私のに歩み寄ると、関係を捨てるように、く、腰を度に折ってげた。

「静枝さん。すまなかった。……君の言う通りだ。私は君を守ったんじゃない。君のさを信じることができず、自分の傲さで君を侮辱していたんだ。本当に……申し訳なかった」

髪の混じった頂部が、私の目のさく震えていた。

私はその姿を、静かに見つめた。

許す、という言葉はてこなかった。

夫が命を落とすきっかけとなった事故。それを隠すために利用された、夫の葬儀の。失われたの歳と、の奥に刻まれた傷跡が、綺麗さっぱり消えてなくなるわけではない。

けれど、胸の奥を塞いでいたたい氷の塊が、ゆっくりと溶けていくのをじていた。

「……げてください、川常務」

私は穏やかに言った。

男さんは、あなたをんではいませんでした。あの帳の最いてあったのは、あなたへの愚痴ではなく、『どうにかする。

広告

俺がなんとかする』という、現への責任だけでしたから」

川常務が顔をげた。その目から、筋の涙が頬の皺を伝って零れ落ちた。

私の指定座に、品から退職が振り込まれた。

通帳の記帳欄に刻まれた数字は、万円。

円のも、円のな相殺もない。私が、こので歩き、こので働いて勝ち取った、正真正銘の私の退職だった。

そので、私は郊の霊園へ向かった。

の柔らかな差しが、入れされた芝を黄に染めている。

私は夫の墓に、とりどりの鮮な向け、線を灯した。

にしゃがみ込み、鞄から取りした枚のを広げる。

事部から正式に返還された、『借用証』の原本だった。

に押された私の印鑑と、誰かが真似ていた私の名

私は携帯用のライターを取りし、その黄ばんだの端にをつけた。

パチパチとさな音をてて、青い炎がを舐めていく。に潜み、私と夫の名誉を脅かしていた呪縛が、となって線の煙と共にの空へと昇っていった。

男さん」

私は墓を触れた。

「終わったわよ。全部、綺麗になった」

たい触の向こうから、夫の照れくさそうな笑い声が聞こえた気がした。

の煙を見つめていると、背から慮がちな音がづいてくるのがわかった。

振り返ると、墓の入りれた杏のに、コートを着たっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: