"十年前に死んでいた夫" 第7話
閉鎖な方の町の、い壁だった。 京からやってきた元のれない女が、何もの名を尋ねて回るなど、気でしかないのだろう。
だが、私は諦めるわけにはいかなかった。 あの運転の反応。 「佐伯」という名には完全に無反応だったが、「輪」とにした瞬、らかに空気が変わった。 輪というは、この町で何か、々がを噤みたくなるような過を残しているのだ。
私は駅広をれ、唯かりの灯っていたさな個商へ向かった。 板には「ヤマザキショップ」と褪せた文字でかれているが、先には乾物や酒、タバコの板が並んでいるだけの、昔ながらの万(よろずや)だった。
引き戸をけると、カランコロンとの抜けた鈴の音が鳴った。 暗い内には、防虫剤と醤油の匂いが混ざりって漂っていた。 レジの奥のがりに、髪をきっちりと結んだ柄な老婦が座り、さなテレビの代劇を見ていた。
「いらっしゃい」
老婦は鏡の奥から、私を穏やかに見つめた。 タクシー運転のような刺々しい警戒はじられなかった。
私は棚から適当なお茶のペットボトルを本に取り、レジへ置いた。
「百円ね」
「あの、おばあさん。しだけ、昔のお話をお伺いしてもいいでしょうか」
百円をトレイに置きながら、私はできる限り柔らかい声で話しかけた。
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「私、昔この町でお世話になった方を探しているんです。随分昔のことで、がかりがほとんどなくて困っていまして」
「昔って、いつ頃だい?」
「以です。……この町で、の仕事や、計の修理などをされていた方を探しているんです」
夫の遺品にあった、あのさな彫刻刀。 そして、彼が内職で驚くほど精密にこなしていた計の歯や具の修理。 あれだけの技術が、素の独学であるはずがなかった。 彼のの節くれち、親指の付け根に刻まれた無数のさな刃物の傷跡は、を削り続けてきた職のそのものだった。
老婦は私の言葉を聞くと、お釣り銭を渡すを止め、首をかしげた。
「計の修理……? ああ、指物(さしもの)やなら、昔はこの先の川のくに何軒かあったよ。桐箪笥を作ったり、掛け計の枠を彫ったりするがね。でも、もうみんな畳んじまったよ。国のい具が入ってきてから、仕事にならなくなってね」
私の胸がねた。
「そののに、『輪』さんという職さんはいらっしゃいませんでしたか?」
老婦は、目元にい皺を寄せて考え込んだ。
「輪さん……。輪の……ああ、敬さんのことかい?」
敬。 初めてにする名だった。
「みわ、けいいち……さんですか?」
「そうだよ。輪所の倅(せがれ)さんだよ。腕のいい職さんだったよ。
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細が細かくてね、神棚の彫刻やら、柱計の細物やら、あのの作ったものはくの京の百貨にまで卸されてたんだから。……でも、あんた、敬さんの親戚かい? 似てないようだけど」
「いえ、親戚ではありません。あの……主が、昔、変お世話になったと聞いておりまして」
私はとっさに、夫のを「第者の主」として偽った。 ここで自分がその男の妻だと名乗れば、話がこじれるような予がしたからだ。
「そうかい。でもねえ、敬さんなら、もうこの町にはいないよ。ずーっと昔にいなくなっちまった」
「いなくなった……? どこへかれたのですか?」
老婦は声を潜め、のをちらりと見た。 まるで、誰かがち聞きでもしているのを恐れるかのような仕だった。
「どこへったかなんて、誰もるわけないじゃないか。……あの事があってから、夜逃げ同然にていっちまったんだから」
事。 その言葉が、たいのように私の背筋を滑り落ちた。
「事があったんですか……?」
「だよ。の寒い夜だった。の乾燥からがてね。……ただの事なら、保険もりただろうし、やり直せただろうさ。でも、あの子が……よりによって、み込みで働いてた職の娘さんが巻き込まれちまったんだ」
老婦はそこで言葉を切り、痛な表で首を振った。
「にねえ。
敬さんは責任をじて、持ってたもも全部売り払って、被害者の方に渡してね。
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