"消えた交換手と鳴らなかった電話" 第16話
遥はそう言いかけて、やめた。枝にとって何が代わりだったかを決める資格は自分にないと悟ったのだろう。代わりに、澄子は毎にだけ仕事を休み、い便箋を買っていたと話した。枝の誕にをき、投函せず箱へしまっていた。
澄子はすでに歳で、潟内のさな修理にんでいる。のほつれや傘の骨を直し、週だけをけていた。話で会いたいと伝えると、澄子は「分かった」と言った。声は若いころよりく、枝には母と判断する根拠がなかった。
潟に着いた、枝はへ直せず、駅の喫茶で母宛ての質問をいた。あの夜、誰がの話線を切ったかっていたのか。なぜ町からるとき子どもにを残さなかったのか。父に拒まれたあと、自分たちの志を確かめようとしたことはあるか。最初のつには資料で答えが見つかるかもしれないが、最の問いは母のから聞くしかない。
質問のあとへ、会えてうれしいともいた。りを消してから会いにくつもりはなかったが、うれしい気持ちを隠せばそれもまた嘘になる。便箋を折り、かばんへ入れての所へ歩いた。先の古い板には、傘との修理を受ける曜がきで記されていた。
枝はので、しばらくガラス越しにを見た。
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さな机に座る女性は、袖をまくって紺のエプロンを繕っている。髪にはいものが混じり、梁だけが記憶の母に似ていた。枝が扉をけると、そのは針を布へ刺したまま顔をげた。
「枝」
名を呼ばれ、枝はようやく確信した。母はちがらず、「来てくれてありがとう」と言った。抱きしめられたら拒んだかもしれないし、を伸ばされなければ傷ついたかもしれない。どうしてほしいのか自分でも分からなかったので、その距は助かった。
澄子は、に持ちした茶い封筒を渡した。灯油の受領控え、つながらなかった話の記録、集落のが伝えた「まだ届かない」という言葉が入っている。記録の枚には、歳の枝の跡で《お母さん、帰ったら根をべる?》とある。母がかけるに渡したさなを、ずっとしまっていたのだ。
「どうして戻らなかったの」
澄子はいをかけて答えた。最初は片桐が族を脅したから。次は夫に拒まれたとったから。そのは、子どもがきくなるほど、傷つけずに説する言葉を見つけられなかったから。仕事としい関係を理由にしながら、いつか枝が自分を探してくれることを待ってしまった。
「待たせる側が、待っていたなんて言ってはいけないわね」
枝は母が今もきていてよかったとった。
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同に、謝られても、の話が鳴らない夜は戻らないとった。つのは打ち消しわず、同じ胸に残った。
対面してからしばらく、澄子は箱に入ったを枝へ見せた。ごとに枝と良太の名をき、所は最初の数通だけ記してある。あとは送り先の町名もない。会えるはいつかを待っていたというより、会いにかないを積みね、そのにく相だけは忘れまいとしたのだろう。
枝は箱ごと持ち帰らなかった。まず通だけ選び、そので読んだ。へったはずの枝へ、好きな科目を尋ねる便箋だった。澄子は答えをらずにいている。「国語が好きだった」と枝が言うと、母は初めて、娘がらないあいだに選んだものについて質問できた。
その、は町の事件をすべて話し切らなかった。連絡先を交換し、来週の同じ曜に枝が話すると決めた。帰り際、澄子は所のかれた封筒を渡したが、枝は名刺に自分の話番号を自分の字でいて渡した。今いつ話すか、方だけが決めるためではない。互いに相へつながる方法を持つためだった。
枝は封筒の資料を町の々と照した。空きの受領印だけでなく、届けられなかったの具体な付と量を確かめるため、当のや子どもを訪ね歩いた。
初は灯油が切れた晩のことを覚えており、佐久は配送の積み荷を記録した私物の帳を差しした。
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