"顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り" 第12話
言葉は喉につかえ、をなさない呻き声となって漏れるだけだった。
そのあまりにも無様で往際の悪い姿に、両親は完全に呆れ果て、絶望したようだった。 りで肩を震わせていた父親が、やがていため息をつき、母親と共に、私と私の父に向かって々とをげたのだ。
「……紗栄さん、お父。うちのバカ息子が……本当に、取り返しのつかないご迷惑と、い傷をお負わせしてしまいました……。から、お詫び申しげます」
母親も涙を流しながら、腰を折った。 「本当に、ごめんなさい……。こんなこと、謝って済むような問題ではないことは々承しております……。本当に、申し訳ありませんでした……!」
両親のその消沈しきった謝罪の姿を見て、私は静かに息を吐いた。 これでようやく、堀はすべて埋まった。 次は――ならぬ、元凶である弘自が、自らの罪を認めてをげる番だった。
両親が々とをげ、逃げが完全に断たれたその状況で、私は腕を組み、弘の顔をじっと見据えた。 もちろん、今さら弘がどれほど誠誠謝罪してきたところで、私の決が揺らぐことなど万につもあり得なかった。 ただ、自らの犯した罪のさを認め、どのような態度でをげるのか――その最の散り際を見届けてやるつもりだった。
(きっと弘のことだから、プライドを傷つけられて憮然としながら、舌打ち混じりに渋々謝ってくるのだろうな……)
広告
そう予していた。 だが――弘が取ったは、私の予を遥かに超えた、あまりにも醜悪でけないものだった。
「う……うわああぁぁぁんッ!! 紗栄ぇぇッ! ごめんよぉぉッ!!」
突如として、弘は顔の筋肉をぐちゃぐちゃに歪めると、粒の涙とを垂らしながら、まるで駄々をこねる幼児のように声で泣き叫び始めたのだ。 そして、に膝をつき、いつくばるようにして私の元へとすがりついてきた。
「ひっ……!?」
私はあまりの気持ち悪さに鳥肌がち、反射に体をきくのけぞらせて歩、歩とずさった。 話でも泣き喚いていたが、まさか代半のの男が、昼堂々、のの玄関先でここまでみっともなく泣き崩れるとはにもわなかった。ドン引きという言葉すらぬるいほどの、烈な嫌悪が全を駆け巡る。
弘のその無様な姿に、恥ずかしさで顔を真っ赤にした両親が、慌てて息子の襟首を掴んで引き剥がそうとした。
「こら、弘! やめないか!」父親が鳴る。 「そうよ! いい歳をして見っともない! これ以、紗栄さんを困らせるんじゃないの!」母親も必に引っ張る。
だが、弘は両親のを狂ったように振りほどき、涙とでぐしゃぐしゃになった顔を私に向け、必にを伸ばしてきた。
「頼むよ、紗栄ぇ! 信じてくれよ! 俺が……俺が本当にしてるのは、紗栄、おだけなんだよぉッ!!」
広告
その言葉が鼓膜に届いた瞬、私の胸の奥で、カチリとたいりのスイッチが入った。 もしその言葉を、会った頃のあの穏やかな笑顔で、真実のとして伝えてくれていたなら、どれほど嬉しかったことだろう。 だが、今の彼の姿はどうだ。嘘と裏切りがすべて見し、保のために泣き叫び、者への加害を正当化しようとするその姿は、醜悪の極みだった。
(私は……こんなにもけなくて、っぺらな男を、本気でしていたの……?) 過の自分に対する激しい悔しさと憤りが込みげ、私は唇をく噛み締めた。 私は父の横から歩に踏みすと、蛇から氷を浴びせるような、徹極まりない声で問い詰めた。
「……私だけ? よくもまあ、そんな嘘が平気で吐けたものね。だったら、どうして浮気なんてしたのよ? それも、もの女性たちと同に!」
私の鋭いに射抜かれ、弘は瞬ビクリと肩をすくめた。だが、彼は自らの弁が私をさらに激させるともらず、信じがたい自己正当化の言葉を並べて始めたのだ。
「だ、だって……! あいつらはみんな、ただの銭目だったんだよ! でを持ってるから、ちょっといこと甘えて褒めてやったら、簡単に引っかかって貢いでくれたからさ……! ただの遊びだよ! 決して本気なんかじゃなかったんだ! 俺の本命は、最初から紗栄だけだったんだよッ!!」
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 23 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 15 -
完結第11話
三億円を迫った夫と偽造DNA
「浮気したあばずれ女だ。慰謝料3億円払え」――5歳の息子がO型だと判明した瞬間、AB型だと信じていた夫は私の不貞を決めつけた。病院での取り違えを疑う私の言葉には耳も貸さず、夫は義母と共に私を罵り、息子の髪まで無理やり抜いてDNA鑑定を強行。さらに「親子関係なし」という結果を突きつけ、病気の息子ごと家から追い出した。長年、学歴を理由に私と息子を虐げてきた義母を、それでも信じ続けた夫。その裏切りに心が切れた私は、実家へ戻り家族と反撃を決意する。だが義実家で再び3億円を要求されたその時、海外から帰国した兄が現れた。「その鑑定結果、一致するわけないよ」――兄が再生した一つの録音から、夫と義母が仕組んだ計画、そして血液型に隠されたさらに深い秘密が崩れ始める――。裡の顔1.6万字5 19 -
完結第31話
「会計は嫁」の還暦祝いと18万6740円
「会計はいつものように嫁ね」――舅の還暦祝いに集まった親族18人。1人8800円の懐石に祝い鯛まで並ぶ中、夫・浩司も「エミ、よろしく」と当然のように私へ支払いを押しつけた。だが私は店員に、自分の9460円分だけ別会計にしてほしいと伝える。2時間後、幹事の浩司へ差し出された残り17人分の伝票は18万6740円。5年前、善意で一度4万円を払ったことから、7万円、10万円超と立て替えは膨らみ、返すという約束も消え、私の財布は田中家の“共有財産”にされていた。しかも浩司は親族に「エミが払ってくれる」と勝手に約束し、自分だけ気前のいい長男を演じていたのだ。経理主任の私はもう黙って穴埋めしない。自分の分だけ払い、残りは予約名義人へ――そして帰宅後、5年分のカード明細を前に、夫へ自分の嘘と向き合うよう突きつける。だが金の境界線を引いた途端、今度は義母が“親族のため”という新たな請求を持ち込み始める――。嫁姑4.6万字5 57 -
完結第19話
結婚翌朝の平手打ちと専務剥奪
「嫁のくせに初日から遅刻か」――結婚翌朝、老舗料亭グループ専務の夫・高志は、親族の前で私・美咲の頬を平手打ちした。私は管理栄養士として、持病を抱える義父・正一郎のために朝食を作り直し、配膳が5分遅れただけだった。しかも義母・かよが“嫁の腕試し”に使わせた古い調味料は、義父の薬と危険な組み合わせになるもの。誰も信じようとしない中、私は義父の御膳をひっくり返し、「命を粗末にするよりはマシです」と言い切る。すると駆け込んできた料理長・佐木が私を“白川先生”と呼び、封印されていた試作品の危険性を証言。父で食品衛生の専門家・白川敬吾からも緊急の電話が入り、食卓の空気は一変する。それでも母をかばい、私を嘘つき扱いする高志。だが義父が「彼女は私の命を救った」と頭を下げた瞬間、黒崎家が守ってきた序列は崩れ始める――。嫁姑2.8万字5 94 -
完結第25話
父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導
父の葬儀を終えて帰宅した私・水希を待っていたのは、夫・高志から突きつけられた離婚届だった。「底辺の血筋」「寄生虫」と亡き父まで侮辱した彼は、次期社長の座を手に入れるため、社長令嬢リナとの再婚を宣言し、10年間尽くした私を無一文同然で家から追い出す。絶望の中、私に残されたのは、父が最期に託した錆びたブリキ箱だけ。その届け先を頼りに東北へ向かうと、辿り着いたのは巨大企業・暁グループの総本部だった。しかも父の名を告げた瞬間、黒服の社員たちが一斉に頭を下げる。父は本当に貧しい町工場の職人だったのか――。やがて私は、父が残した“力”と、高志の会社を巡る不穏な事実を知る。もう泣いて耐えるだけの妻ではない。自分を捨てた男が次期社長の座を確信して総本部へ乗り込む日、私は静かに反撃の舞台を整え始める。嫁姑3.8万字5 237 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 857 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 21 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 12