"顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り" 第16話
「私しか頼れないということは……何? 私とやり直したい、今度こそ浮気はしないって、復縁でも迫りに来たわけ?」
私がカマをかけるようにそう告げると、弘の顔に、パッと希望のが灯った。 自分の図が伝わったことが嬉しいのか、彼は子供のように破顔し、両を広げてを乗りしてきたのだ。
「あ、ああ! そうなんだよ、紗栄! もしかして……俺とやり直してくれる気になったのか!? 俺を許して、受け入れてくれるんだろ!?」
無邪気にはしゃぐその姿を見つめながら、私はの底から乾いたりを覚えた。 体、どんな脳内構造をしていれば、ここまで都のいい解釈ができるのだろうか。
「冗談じゃないわ」私は氷のようにたい声で切り捨てた。「私があなたを助ける義理なんてこれっぽっちもないし、やり直すつもりなんて輪際ないわよ。虫酸がるから、さっさと帰って」
私が酷に拒絶すると、今度もまた泣き落としで縋り付いてくるのだろう――そう構えていた。 だが、弘は私の予とはまったく異なる、奇怪な反応を見せたのだ。
ふっと、彼の元が歪んだ。 彼は汚れやつれた顔に、かつて私を説いたのような、気で敵な笑いを浮かべたのだ。
「……へえ。おがそんな気な態度を取れるなんて、だな。でもさ……そういうツンツンした紗栄も、なかなか悪くないぜ? ますます気に入ったよ」
広告
背筋にゾワリと悪寒がった。 この期に及んで、何を勘違いしているのか、突然私を女として値踏みし、説くような言葉を投げかけてきたのだ。 交際当初であれば、私の些細な変化を褒めてくれる彼の言葉に胸をときめかせたこともあっただろう。 だが、今の状況でそんな言葉をにする男の裏に、以の何がするというのか。
「……あなた、そうやっての女性たちのことも、歯の浮くようなお世辞で褒めて気分良くさせて、貢がせていたんでしょうね。言っておくけれど、私はもう、あなたのっぽいペテンには度と騙されないわよ」
私が毅然と言い放っても、弘はなおもニヤつきながら、必にいがってきた。
「騙すだなんて、聞きの悪いこと言うなよ! 俺は本気でおをしてるんだからさ! 頼むよ、紗栄……!」
必にをアピールするその姿。 だが、私には彼がここへやってきた「真の目」が、すでにに取るように見透かせていた。
私は腕を組み、ややかな線で目ののれな男を見ろした。
「ねえ、弘さん。……あなたが浮気していたことは、あのの女性全員にバレたのよね?」
私の唐突な問いかけに、弘の笑いがピクリと凍りついた。 「え……? な、なんで……それを……」 揺してずさる弘に、私は容赦なく追い打ちをかけた。
「ショッピングモールでの女性に問い詰められていた、誰に目撃されたか……胸にを当てて考えたら分かるはずよ。
広告
……方、あの集まったの女性たち全員から、『今まで貢いだブランド品やおを全額返せ!』って、激しく責めてられているんじゃないかしら?」
弘の顔から、完全にが失われた。 図だったのだ。 の女性たちから斉に損害賠償や銭の返還を迫られ、逃げを失い、実からも勘当され、文無しになった男。 そんな男が、かつて自分を盲目にしてくれていた、裕福な社令嬢の元へやってきた理由――。
「返済に困り果てて……『紗栄なら、まだ俺に未練があるかもしれない』『いこと言いくるめて復縁すれば、またをしてくれるかもしれない』……そうって、すがりついてきたんでしょう?」
私の徹な推論が寸分の狂いもなくした瞬、弘はついに理性の仮面を完全にかなぐり捨てた。 彼の顔はりと屈辱で真っ赤に沸騰し、拳を振り回しながら、狂ったように絶叫したのだ。
「な、何なんだよおはッ!! 偉そうにから目線で説教しやがって!! 俺からの慰謝料だって、親父から百万もふんだくったんだろうが!! ならいくらでもあるだろ! 俺がこんなに困ってるんだから、しは恵んでくれたっていいじゃないかッ!!」
本性を現した。 、、――。 最初から最まで、この男ののにはのことしかなかったのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 23 -
完結第13話
八百万円の泥棒とされた妹、九年目の審判
九年前に八百万円を持ち逃げして失踪したとされる妹。その金庫が、元婚約者の実家の庭、厚さ二十センチのコンクリート直下から未開封のまま掘り出された。 「腹いせに捨てたのよ」と喚く元義母だが、金庫の底にあった妹の携帯には、未送信の悲痛な下書きが残されていた。 泥棒の家族として親を失い、蔑まれて生きてきた姉・綾乃は、完璧に塗り固められた「被害者一家」の嘘と対峙することを決意する。真実|裡の顔|行方不明|金銭問題|修羅場2.0万字5 15 -
完結第11話
三億円を迫った夫と偽造DNA
「浮気したあばずれ女だ。慰謝料3億円払え」――5歳の息子がO型だと判明した瞬間、AB型だと信じていた夫は私の不貞を決めつけた。病院での取り違えを疑う私の言葉には耳も貸さず、夫は義母と共に私を罵り、息子の髪まで無理やり抜いてDNA鑑定を強行。さらに「親子関係なし」という結果を突きつけ、病気の息子ごと家から追い出した。長年、学歴を理由に私と息子を虐げてきた義母を、それでも信じ続けた夫。その裏切りに心が切れた私は、実家へ戻り家族と反撃を決意する。だが義実家で再び3億円を要求されたその時、海外から帰国した兄が現れた。「その鑑定結果、一致するわけないよ」――兄が再生した一つの録音から、夫と義母が仕組んだ計画、そして血液型に隠されたさらに深い秘密が崩れ始める――。裡の顔1.6万字5 19 -
完結第31話
「会計は嫁」の還暦祝いと18万6740円
「会計はいつものように嫁ね」――舅の還暦祝いに集まった親族18人。1人8800円の懐石に祝い鯛まで並ぶ中、夫・浩司も「エミ、よろしく」と当然のように私へ支払いを押しつけた。だが私は店員に、自分の9460円分だけ別会計にしてほしいと伝える。2時間後、幹事の浩司へ差し出された残り17人分の伝票は18万6740円。5年前、善意で一度4万円を払ったことから、7万円、10万円超と立て替えは膨らみ、返すという約束も消え、私の財布は田中家の“共有財産”にされていた。しかも浩司は親族に「エミが払ってくれる」と勝手に約束し、自分だけ気前のいい長男を演じていたのだ。経理主任の私はもう黙って穴埋めしない。自分の分だけ払い、残りは予約名義人へ――そして帰宅後、5年分のカード明細を前に、夫へ自分の嘘と向き合うよう突きつける。だが金の境界線を引いた途端、今度は義母が“親族のため”という新たな請求を持ち込み始める――。嫁姑4.6万字5 57 -
完結第19話
結婚翌朝の平手打ちと専務剥奪
「嫁のくせに初日から遅刻か」――結婚翌朝、老舗料亭グループ専務の夫・高志は、親族の前で私・美咲の頬を平手打ちした。私は管理栄養士として、持病を抱える義父・正一郎のために朝食を作り直し、配膳が5分遅れただけだった。しかも義母・かよが“嫁の腕試し”に使わせた古い調味料は、義父の薬と危険な組み合わせになるもの。誰も信じようとしない中、私は義父の御膳をひっくり返し、「命を粗末にするよりはマシです」と言い切る。すると駆け込んできた料理長・佐木が私を“白川先生”と呼び、封印されていた試作品の危険性を証言。父で食品衛生の専門家・白川敬吾からも緊急の電話が入り、食卓の空気は一変する。それでも母をかばい、私を嘘つき扱いする高志。だが義父が「彼女は私の命を救った」と頭を下げた瞬間、黒崎家が守ってきた序列は崩れ始める――。嫁姑2.8万字5 94 -
完結第25話
父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導
父の葬儀を終えて帰宅した私・水希を待っていたのは、夫・高志から突きつけられた離婚届だった。「底辺の血筋」「寄生虫」と亡き父まで侮辱した彼は、次期社長の座を手に入れるため、社長令嬢リナとの再婚を宣言し、10年間尽くした私を無一文同然で家から追い出す。絶望の中、私に残されたのは、父が最期に託した錆びたブリキ箱だけ。その届け先を頼りに東北へ向かうと、辿り着いたのは巨大企業・暁グループの総本部だった。しかも父の名を告げた瞬間、黒服の社員たちが一斉に頭を下げる。父は本当に貧しい町工場の職人だったのか――。やがて私は、父が残した“力”と、高志の会社を巡る不穏な事実を知る。もう泣いて耐えるだけの妻ではない。自分を捨てた男が次期社長の座を確信して総本部へ乗り込む日、私は静かに反撃の舞台を整え始める。嫁姑3.8万字5 237 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 857 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 21 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 12