みかん小説
本棚

"顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り" 第17話

私がした男など、最初からこの世のどこにもしていなかったという事実を、これ以ないほど確に突きつけられた瞬だった。

私は蔑みを含んだたい笑みを浮かべ、静かに言い放った。

「やっぱり、おが目だったのね。……でも、残ね。私はあなたに恵んであげるおなんて、円たりとも持ちわせていないわ。もう度と、私のに関わらないで」

「そ、そんなこと言うなよぉッ!!」 弘は再び血相を変え、座せんばかりの勢いで玄関の敷居を跨ごうとしてきた。 「頼むよ紗栄ぇ! もう俺には、おしかいないんだよ! をくれ! 匿ってくれよぉッ!!」

これ以、この醜悪なストーカーまがいの男と問答を続けていても、の無駄であり、の危険すらじかねない。 私はすっと背筋を伸ばし、スマートフォンを胸元に構え、く、絶対零度の声で告げた。

「……もう話は終わりよ。これ以、敷内で騒ぐなら、今すぐ百番通報して警察を呼ぶわ。……それでもいいの?」

『警察』――。 その単語が私のから放たれた瞬、弘きがピタリと止まった。 彼の顔面が、恐怖のあまりに変する。 借問題、女性たちへの詐欺まがいの搾取、そして実からの追放――すでにろ暗いことだらけの彼にとって、警察の介入は何よりも恐ろしい破滅の引きだったのだ。

広告

「け……警察だけは……警察だけは勘弁してくれぇぇッ!!」

は喉が裂けんばかりの鳴をげると、私に背を向け、転がるようにして庭先へと駆けしていった。 のついたをもつれさせ、塀に肩をぶつけながら、目散にの向こうへとっていく。

「うわあああぁぁぁんッ!!」

ざかっていくそのけない泣き叫びを聞きながら、私はたいが吹き抜ける玄関で、静かにドアを閉めた。 カチャリ、と鍵をかける。 胸のに広がっていたのは、勝利のびなどではなく、ただい、静かな堵の吐息だった。

その、弘がこの町で姿を見かけることは度となかった。 の噂によると、彼はそのもしばらくの、懲りることなく別のたな女性を騙して財布代わりにしようと画策していたらしい。 だが、狭い域社会ので悪評は瞬くに広まり、SNSを通じて被害女性たちのネットワークに居所を特定され、再び複数の女性やその親族から激しい追及を受けることになったのだという。 借取りと被害女性たちから逃げ回るうちに、彼は完全に元にいられなくなり、夜逃げ同然にどこかくの見らぬへと姿を消したそうだ。

どこへ逃げたのかはらないし、りたいともわない。 ただ、願わくば、彼の逃げ延びた先で、度と彼のようなペテン師に騙されるしい女性が現れないことだけを、私は祈るばかりだった。

広告

あの騒が完全に過のものとなり、平穏な常が戻ってきた、ある休の夕暮れのことだった。 実の居で、私は仕事を終えて聞を広げていた父のに、温かい緑茶を淹れて運んだ。

湯気のつ湯呑みをテーブルに置き、私は父の向かいの席に座ると、々とげた。

「お父さん。……弘のこと、徹底に調べてくれて、本当にありがとう。最初はお父さんの言葉を信じられなくて、酷い反発をしちゃって……本当にごめんなさい」

私のからの謝と謝罪に、父は広げていた聞をゆっくりと膝のろした。 そして、照れ隠しのように眉をげ、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべたのだ。

「いや……俺の方こそ、ごなしにキツい言い方をして悪かったよ。おの気持ちをもっと汲んで、もっとい段階で、静に話してやれば良かったのかもしれんな」

互いにい、私たちは顔を見わせてさく笑った。 そこで、私はずっとに引っかかっていたつの疑問を、父に投げかけてみることにした。

「ねえ、お父さん。どうして最初から、弘のことを調べようとったの? あいつが私に対して横柄で偉そうな態度を取り始めるから、興信所に依頼して調べていたみたいだけど……」

父は湯呑みにを伸ばし、いお茶を啜ると、い目をして静かに語り始めた。

「弘君と会う……おづいてくる男たちには、うちの資産や会社のコネを目当てにした劣な奴がすぎたからな。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: