みかん小説
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"社長夫人と平社員の妻" 第2話

、娘が活科の授業で育て、休みに持ち帰ってきたさな種。 夫は休みのにホームセンターへき、ひごのような細い支柱を買ってきて、さな娘のを取って緒にへ挿した。でしゃがみ込み、伸びてきた細い緑の蔓を、本丁寧に支柱へ絡ませてやったのだ。

になると、夫は娘と並んでベランダのコンクリートに腰をろし、朝のを浴びていた青いつぼみの数を、指差し確認しながら数えっている。 「お父さん、見て! 今しいが咲いたよ!」 娘が歓声をげて夫の作業着の袖を引っ張る。 「おお、本当だな。昨よりいぞ」 夫も娘とまったく同じ形の目尻をげて、くしゃりと笑う。

私は台所の窓枠に寄りかかり、れたところからそのつの背を眺めているが何よりも好きだった。 飾り気のない、贅沢とは無縁の慎ましい暮らし。 けれど、あの朝顔の鉢のにしゃがみ込む夫と娘の穏やかなこそが、私のにおいて何よりも尊く、命に代えても守り抜きたいと願っている世界のすべてだった。

の藤崎麗華と会ったのは、会社の付きいがきっかけではない。 子供同士が偶然にも同じ公に通い、同学のクラスに籍しているという、いわゆる「ママ友」

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としての関係が先だった。 私にも娘がおり、麗華のところにも同いの娘がいる。毎の通学の旗当番や、運会、保護者会といった学事で、互いの顔と子供のことはとうの昔からっていた。

その、夫の勤務先の役員や幹部社員の妻たちが集まる、半度の「婦会」が催されることになっていた。 私はクローゼットから、何も着慣れた淡いグレーのカーディガンを取りし、毛玉を払って袖を通した。 質素な装いのまま、駅のシティホテルの階へと向かった。

ホテルの階にある宴会い両き扉をけると、そこには別世界のような景が広がっていた。

真っなリネンクロスを掛けられた円卓がいくつも然と並び、各卓の央には季節のが見事に活けられている。井の接照は柔らかく落とされ、く漂う貴婦たちのざわめきのを、折、陶器の触れう音と甲い笑い声が弾んでいた。

かれるこの婦会で、輪のに座るのは決まって麗華だった。 先代社が病で倒れ、夫の邦彦がその釜に座って以来、彼女の傲さはを追うごとに増していた。

指定された末席に私が腰をろした瞬、メインテーブルの央に陣取っていた麗華の線が、獲物を値踏みするように、私ののてっぺんから元へとゆっくりとなぞり落ちてきた。

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「あら……あなた、今そのカーディガンでいらしたの?」

麗華の元には笑みが貼り付いていたが、その声には温もりなど爪の先ほども含まれていなかった。 「ええ、こういう席には慣れておりませんので……」 私が言葉を濁すと、麗華は胸元の粒の真珠のネックレスを指先で弄びながら、憐れむような声を作った。

「まあ無理もないわよね。ご主、うちの会社の『平社員』でいらっしゃるものねえ。お料の額も、れているでしょうし。無理して私たちの装いにわせなくて結構よ」 「恐れ入ります」 「ご主は確か、の現の方よね? あの油塗れの作業着を着て、もう何目かしら?」 「こので、になります」 「!?」 麗華はげさに目を丸くし、わざとらしく元を扇子で隠した。 「も勤めていて、まだ平社員のままでいらっしゃるなら……まあ、もう先はないわねえ」

くの席で、誰かが微かに子を引く音がした。周囲の話し声がくなり、全員のが私たちのやり取りへと向けられる。 麗華は畳み掛けるように、私の胸元を指差した。

「それにしてもそのお体何お召しになっているのかしら? 毎、同じものを見ている気がするのよ」 「ええ……気に入っているものですから」

仕が注いで回る茶も、のトレイで運ばれてくるプティフールも、私の元に回ってくるのは決まって番最だった。

誰も言葉にはさないが、夫の社内での階級がそのまま妻の座席の序列であり、としての価値なのだと、え切った空気が雄弁に物語っている。

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