"一度も抱かれなかった娘" 第7話
それらをビジネスバッグの底くに押し込み、番奥の自のクローゼットへと運んだ。 コートの奥、普段は絶対にけることのないプラスチックの装ケースの底に、封筒ごと突っ込んで蓋を閉める。
カチリ、とプラスチックの爪が噛みう音が、まるで罪の証拠を閉じ込める音のように部に響いた。
その夜の卓は、いつもと違っていた。
テレビでは夕方のバラエティ番組が流れていたが、咲良はほとんど画面を見ようとしなかった。 さなお皿に取り分けたデミグラスソースのハンバーグを、フォークの先でさく刻むばかりで、に運ぶ速度が異常に遅い。
「どうした、咲良。美しくないか?」 向かいの席から声をかけると、咲良はびくりと肩を揺らし、線を伏せたまま首を横に振った。
「ううん。おいしいよ」 そう言いながら、に含んだのは指の先ほどのさな肉片だけだった。
「保育園で、何かあったのか? 先にられた?」 「……おこられてない」
「じゃあ、お友達と喧嘩した?」 「けんかも、してない」
咲良はさく答えると、フォークを置き、膝ので自分の両をじっと見つめた。 その指先が、何かを探すように、もじもじといている。 あのガーゼハンカチの触を、まだ覚えているのだ。 歳のので、何かが静かに、けれど確実に軋んでいるのが分かった。
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——ママはね、咲良がまれたとき、抱っこもしないでどこかへっちゃったんだよ。
私が植え付けたその言葉と、今目にした「さくら」という優しい刺繍。 そのふたつが、咲良のでどうしても噛みわないのだ。 子どもは馬鹿ではない。 自分を嫌って捨てたはずのが、なぜ、自分の名をあんなにも丁寧に縫い付けるのか。 その矛盾のさに、歳のさなが耐えかねている。
「咲良」 私はあえてるい声をした。 「残してもいいから、お呂に入ろう。今はパパがを洗ってあげる」
咲良はさく「はい」とだけ言い、子からりた。 いつもなら「あわあわのソフトクリームつくって!」とはしゃぐ浴でも、咲良は終始おとなしかった。 私の顔を見ようとせず、湯の縁に顎を乗せ、揺れる面をじっと見つめていた。
咲良を寝かしつけるのには、いつもの倍のがかかった。 絵本を冊読み終えても、咲良の目は冴えていた。 さな毛布を顎のまで引きげ、暗がりので、じっと井の点を見つめている。
「パパ」 部のかりを消してドアノブにをかけた、暗がりからさな声が届いた。
「ん? どうした」 「……ママって、どんなお顔だったの?」
が止まった。 臓がぎゅっと縮みがり、喉の奥が苦くなる。 咲良が母親の「顔」について尋ねてきたのは、これが初めてだった。
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これまでは「自分を捨てた悪い」という認識を植え付けていたため、咲良自ら母親の話題をにすることは、ほとんどタブーのようになっていたのだ。
「……優しそうな顔だったよ」 私はドアに背を向けたまま、乾いた声で答えた。 「でもね、が病気だったんだ。だから、咲良のこともパパのことも、事にできなかったんだよ」
「……びょうき?」 「そうだよ。だから、もう考えなくていいんだ。咲良にはパパがいる。パパがずっと、咲良のそばにいるから」
暗がりので、咲良はそれ以何も言わなかった。 ただ、擦れの音がして、さな体が横を向いたのが分かった。 私は逃げるように子供部をて、ドアを静かに閉めた。
リビングに戻ると、部のの静寂が耐え難いほどくじられた。 ソファに座り、両で顔を覆う。 指の隙から漏れす自分の呼吸が、荒く乱れていた。
「病院の……あの女のせいだ」
助産師の望。 あの女が余計なものを引っ張りし、私に押し付けたからだ。 保管期のが過ぎたのなら、黙って焼却炉に放り込めばよかったのだ。 医療の倫理だか正義だからないが、の庭ので踏み込み、平穏な活をかき乱す権利がどこにあるというのか。
りが、恐怖を覆い隠すように湧きがってきた。 私はちがり、クローゼットからあの類を取りした。
病院の話番号をスマートフォンに入力する。 夜受付ではなく、の朝番で、あの望という助産師を直接呼びし、徹底に抗議してやる。
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