"一度も抱かれなかった娘" 第18話
私はちがり、千の腕を掴もうとした。 だが、千は汚らわしいものを見るように私のを激しく振り払った。
「触らないで! ……咲良ちゃんが本当によ。こんな男を、世界でたったの父親だと信じ込まされてきたんだから!」
千はに喫茶をてった。 カランコロン、と乾いたベルの音が響き、ガラス扉が閉まる。
私は内に、取り残された。 膝の力が抜け、ソファに崩れ落ちる。 周囲の客が、怪訝な顔で私を見ていたが、それを気にする余裕など微もなかった。
のが、激しい嵐のように吹き荒れていた。 すべてが終わった。 裁判になれば、あの護記録も、記も、すべてがのに晒される。 親族も、会社も、所の々も、全員がることになる。 私がやってきたことの、おぞましい全貌を。
——パパ、ママって、どんなお顔だったの? ——さくらを、だっこしてくれるひと。
咲良の声が、の奥で霊する。 あのガーゼハンカチを見たの、咲良の澄んだ瞳。 あの瞳に、私はこれからどんな顔をして向きえばいいのだ。 「おの母親を追いし、抱っこすらさせずに引き裂いたのは、このパパだよ」と、どうやって言えばいいのだ。
ふと、腕計が目に入った。 午分。
臓が、ドクンとねがった。
咲良。 アパートにで残してきた、咲良。 「分で戻る」
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と言って、もうくが経とうとしていた。
私は弾かれたように席をち、伝票をひったくってレジに千円札を投げ捨てた。 「お釣りはいいです!」 叫びながら喫茶をびし、夕暮れのへ駆けした。
胸騒ぎがした。 言葉にできない、猛烈な胸騒ぎが、私の背を焼き尽くすように追ってくる。 咲良の、今朝のあの怯えたような目。 「パパ、さくら、おないよ?」と言ったの、あのさな声。
私は宅の坂を、喉が血のになるほど全力で駆けがった。 スーツのズボンにがね、靴擦れの痛みがるのも構わなかった。 く帰らなければ。 くに帰って、咲良を抱きしめなければ。 何を話せばいいのか分からない。真実をどう伝えればいいのかも分からない。 それでも、今はただ、あのさな体をこの腕のに確かめたかった。
角を曲がり、見慣れたアパートの建物が見えてきた。 階段を段ばしで駆けがる。 階の奥、私の部——〇号。
その玄関のにった瞬、私の全の血が凍りついた。
「……え?」
玄関のドアノブの横。 鍵穴ののシリンダーが、解錠の位置になっていた。
そして、い鉄のドアが。 ほんの数センチだけ、側に向かって、隙をけていたのだ。
隙から、夕方のたいが、ヒュウと音をてて廊へ吹きしていた。
「咲良……?」
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震えるで、ドアノブを押しけた。 蝶番が、キイと鈍い鳴をげる。
「咲良! パパだぞ、戻ったぞ!」
玄関にび込んだ。 だが、返事はなかった。 (たたき)のには、咲良のスニーカーがなかった。 娘がいつも履いている、ピンクの、マジックテープのついたスニーカーだけが、ぽっかりと消えていた。
廊を駆け抜け、リビングの引き戸を乱暴にける。
テレビの画面では、先ほどつけたアニメのキャラクターたちが、賑やかな音楽にわせて楽しそうに踊り続けていた。 誰もいないソファ。 テーブルののコップのは、も減っていなかった。
「咲良! どこだ!? 咲良!」
寝をけ、クローゼットをけ、呂やトイレのドアを片っ端からけ放った。 どこにもいなかった。 静まり返った部のに、テレビの能気な音声だけが虚しく響いている。
そして、リビングに戻った私のが、廊の隅で止まった。
のに、何かが落ちていた。
咲良が保育園へ持ってっていた、さな黄の通園リュックだった。 ファスナーが全にかれ、がに散らばっていた。 連絡帳。クレヨン。着替えの靴。
そして、その散らばった荷物の真んに。 今朝まで咲良が切そうに隠し持っていたはずの——あのピンクの刺繍が入った、ガーゼハンカチの姿だけが、どこにもなかった。
玄関のドアは、内側のサムターンを回せば、歳の子どもの背丈でも簡単にけることができる。 咲良は、自分で鍵をけてへたのだ。
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