"一度も抱かれなかった娘" 第21話
言葉を音吐きすたびに、胸の奥が血を流すように痛んだ。 「ママはね、咲良のことが嫌いだったんじゃない。度も、嫌いになんてならなかった」
咲良のさな眉が、困惑したように寄る。 「……でも、パパ……ママは、だっこしてくれなかったって……」
「パパが、抱っこさせなかったんだ」
咲良の呼吸が、ぴたりと止まった。
「ママはね、咲良がまれた、嬉しくて、嬉しくてたまらなかったんだ。痛い体を無理してかして、病院の先に何度もお願いしたんだよ。『くこの子を抱っこしたい、名を呼んであげたい』って、泣きながらお願いしたんだ」
私の界が、溢れる涙で完全に滲んだ。 膝をついたズボンに、ぼたぼたと粒の雫が落ちていく。
「でもね……パパが、それを邪魔したんだ。パパが、ママにいじわるをしたんだよ。パパは、自分のことしか考えていなくて……ママが怖がるようなことをたくさんして、ママを追い詰めて……咲良をママから取りげてしまったんだ」
咲良は、言葉を失ったように私を見つめていた。 歳の子どもに、のエゴや支配欲のすべてを理解できるはずはない。 だが、「誰が誰を傷つけたのか」という真実のみだけは、そのさなに真っ直ぐに届いていた。
「ママはね、咲良を捨てたんじゃない」 私は咲良のたい指先を、自分の胸元に引き寄せた。
広告
「ママは……パパが怖くて、逃げるしかなかったんだ。咲良を連れて逃げたかったのに、パパがそれすら許さなかった。……悪いのは、全部パパなんだよ。咲良、おはね、世界で番されてまれてきたんだ。ママは、おを抱きしめたくて、抱きしめたくて、たまらなかったんだよ……!」
喉の奥から、嗚咽がせりがってきた。 私は咲良のさな体を、力いっぱい抱きしめた。 、拒絶し、隠し、歪め続けてきた真実のみが、私の背にく圧し掛かっていた。
咲良のさな胸から、かすかな空気が抜けるような音がした。 そして、次の瞬。
「う、わあぁぁぁぁぁん……!」
咲良が、私の胸のでがついたように泣きした。 それは、今まで度も聞いたことのない、魂を引き裂くような泣き声だった。 して、み込んで、の奥底に押し込めていた「お母さんに抱きしめてもらえなかったしみ」が、の歳を超えて、気に噴きしていた。
「ママぁ……ママぁ……!」
咲良は私の肩に顔を埋め、さな拳で私の背を何度も、何度も叩いた。 痛くなどなかった。 ただ、そのさな拳のみが、私がこの子に背負わせてきた罪のさを、容赦なく刻みつけていた。
「ごめんね、咲良……本当に、ごめんなさい……」
たいの夜気の、私たちはだらけの滑り台ので、互いを抱きしめいながら、いつまでも泣き続けた。
広告
夜のを回る頃、私は咲良をおぶってアパートへ戻った。 咲良は泣き疲れたのか、私の背に額を預けたまま、さくをすすり続けていた。 そののには、あのガーゼハンカチが、今度は優しく、宝物のように握られていた。
部に入り、咲良のを温かいタオルで拭き、に汚れたを着替えさせた。 咲良は終始、無言だった。 だが、その瞳から、あの怯えるような警戒のは消えていた。 代わりに宿っていたのは、きな真実をってしまった子ども特の、く、静かな差しだった。
咲良を寝のベッドに寝かせ、毛布を肩まで掛けた。 「パパ……」 咲良が、毛布のから細い腕を伸ばし、私の袖の端をさく掴んだ。
「なに?」 私がベッドの脇にしゃがみ込むと、咲良は枕の横に置いたガーゼハンカチを見つめながら言った。
「……ママ、どこにいるの?」
胸が締め付けられた。 今ここで、適当な嘘で誤魔化すことはもう許されない。
「……パパも、どこにいるか分からないんだ」 私は正直に答えた。 「でもね、ママの昔からの切なお友達が、ママのことをっている。パパ、これからそのに話して、ちゃんと聞いてみるよ」
咲良は、私の目をじっと見つめた、さく「うん」と頷いた。 そして、ハンカチを両で胸元に抱きしめ、静かに目を閉じた。 呼吸がしずつくなり、規則正しい寝息に変わっていくのを見届けてから、私は部をた。
リビングのかりをつけ、スマートフォンを取りした。 発信履歴に残っている、千の番号。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
二千四百万の罠と偽りの解雇
「もう入らなくていい。本日付で解雇だ」 月曜の朝、ゲートで社員証を弾かれた私に、上司は冷酷に告げた。四年間心血を注いだ再生企画の責任者名を横取りされた翌日、手渡されたのは理由なき『解雇通知書』。 理不尽に追放されかけた私だったが、内部監査から突如、私名義で申請された「二千四百八十万円」もの不正稟議の存在を告げられる。 窮地に立たされた私を陥れた者たちは知らなかった。私が社内でただ「会長」と呼ぶ女性の正体と、消されたはずのサーバーに残る決定的な記録を――。 「では、神矢会長を呼んでください」 私が録音を開始したスマホを置いた時、役員フロアの空気が一変する。職場逆転|真相2.1万字5 1150 -
完結第19話
母の葬儀を拒んだ叔父と、消えた教育資金350万円
母を突然失った18歳のまほは、葬儀の方法すら分からず父方の本家へ助けを求める。しかし叔父・正尾は「最後まで自分たちだけでやれ」と突き放し、亡き母まで恩知らずだと罵った。 それから15年、まほは苦学の末にIT企業を立ち上げ、約300人を率いる社長へ成長する。そこへ会社が傾いた正尾が現れ、自分の息子・優と娘・沙耶を「親戚だから」と縁故採用するよう要求。だがまほは「親戚枠も縁故枠もない」と公平な選考を突きつける。 やがて従兄妹が本家の納戸から発見したのは、母が祖父母へ何年も仕送りを続けていた証拠と、父がまほの大学進学のために残した約350万円の信託預金だった。しかも、その金は叔父の会社口座へ流れていた。 15年間母を悪者にしてきた叔父の嘘が、ついに物証によって崩れ始める――。親子関係|金銭問題2.8万字5 270 -
完結第10話
クラウドが暴いた午前一時の密会
「23時には行く」 40度近い高熱で生後3ヶ月の息子と救急搬送された私を置き去りにし、夫は電話を20回鳴らしても無視し続けた。 眩しすぎる処置室で泣き叫ぶ我が子。深夜2時、現れない夫の代わりに訪れた児童相談所の車へ、私は震える手で息子を託した。 深夜3時40分、酒と女の香水を漂わせて現れた夫は「接待だ、児相なんて大袈裟だ!」と逆上。 だがその時、家族共有クラウドに次々と同期されたのは、21時15分の花火、そして深夜1時50分のホテルで浴衣姿の後輩社員と笑い合う自撮り写真だった――。 私は冷え切った指先で、弁護士へ一本の電話をかけた。夫婦|親子関係1.5万字5 264 -
完結第12話
離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫
3年間無職の夫・浩司から毎月25万円を要求され続けてきた設計士の美保は、出張先のホテルで「振り込まなければ離婚する」と脅されながら、すでに役所で受け取った離婚届受理証明書を静かに見つめていた。 夫は愛人と豪遊し、義母まで共謀して、美保が亡き父から受け継いだ家の名義を書き換えようとしていた。美保は実印を密かに変更し、カードと生活費口座を停止。さらに3年間集めた不正利用、浮気、恐喝、名義変更計画の証拠を弁護士へ渡す。帰宅した彼女に夫は顧客資料を盾に300万円を要求するが、そのファイルは最初からダミーだった。 そして美保がテーブルへ置いた1枚の「離婚届受理証明書」を見た瞬間、自分たちが奪うはずだった家も金も、すでに手の届かないものになっていたと夫と義母は初めて知る――。夫婦|金銭問題1.8万字5 243 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 332 -
完結第23話
奪われた手柄と残された受領印
「開発担当の名前、成瀬君に変えておいたから」三ヶ月不眠不休で作った新システムの企画書から、友春の名前は消されていた。机の下で手を重ねる後輩と、冷たく婚約破棄を告げる霞。すべてを奪われ雨の夜に倒れた友春は、なぜか「あの会議の前日」に目を覚ます。 二度と他人の踏み台にはならない――友春は綿密な引き継ぎと受領印だけを残し、即日退職を叩きつけて姿を消した。 迎えた本番発表会、後輩が「見栄え」のために独断で削除した安全装置が、大観衆の前で最悪の暴走を始める。「頼む、戻って直してくれ!」すがる元上司に、友春が突きつけた言葉とは――。職場逆転|真相3.4万字5 215 -
完結第24話
銀2両で売られた盲目の花嫁
不作の年、盲目の竜児は、弟の嫁取り資金を欲しがる継母によって、恐ろしいと噂される山の猟師・陸炎山へ半ば売られるように嫁がされる。 ところが待っていたのは暴力ではなく、彼女を娘のように迎える姑と、「安心して暮らせるまで絶対に触れない」と約束する不器用で優しい夫だった。 薬屋で働いた経験を持つ竜児は、失明していても薬草を見分ける知識を生かし、炎山の狩りと力を合わせて貧しい一家の暮らしを立て直していく。 やがて名医から「治療できる可能性がある」と告げられ、失っていた視力にも希望が差し始める。 しかし陸家が豊かになるほど、金を狙う継母や炎山の過去に関わる女まで現れ、竜児の新しい家族と幸せを脅かし始める――。嫁姑|親子関係3.5万字5 374 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 802