"一度も抱かれなかった娘" 第22話
コール音は、わずか回で途切れた。
『……何の用?』 千の声は、昼と変わらず淡で、棘を含んでいた。
「千さん」 私の声は、ひどく掠れていた。 「咲良が見つかりました」
話の向こうで、微かに息を呑む気配がした。
「……咲良が、をびしていたんです。あの病院から持ち帰った、茜が名を刺繍したハンカチを持って……所の公園で、で泣いていました」
『……そう』
「私……咲良に、全部話しました」
受話器の向こうが、完全な沈黙に包まれた。
「私が嘘をついていたこと。茜が咲良を捨てたんじゃないこと。私が茜を追い詰め、抱っこすることすら奪って追いしたこと……全部、話しました」 私の目から、再び涙が溢れしてきた。 「私は最なです。自分の惨めさを認めたくなくて、、娘に呪いをかけ続けていました。千さんの言う通りです。私は派な父親でも何でもない、ただの臆病な卑怯者でした」
私はキッチンのに膝をつき、受話器に向かってくをげた。
「お願いします、千さん。……茜は、きているんですね。どこにいるのか、教えてください。私が会いにくためじゃありません。茜に謝る権利すら、今の私にはないことは分かっています。でも……咲良にだけは、母親がきていることを、母親が今も自分をしてくれているという証拠を、届けてやりたいんです」
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い、い沈黙が流れた。 計の針が刻む音だけが、部のに響いていた。
やがて、受話器の向こうから、いため息が聞こえてきた。 昼の激に満ちたりは消え、そこにあったのは、分の歳を背負った、い疲労のだった。
『……駅のファミリーレストランに来られる? 咲良ちゃんをにするわけにはいかないから、誰か預けられるはいる?』
「咲良は……く眠っています。でも、にはできません。私が連れてきます」
『分かったわ。奥のボックス席にいる。……急ぎなさい』
通話が切れた。 私は寝へき、眠っている咲良をそっと抱きげた。 くなった娘の体をダウンコートで包み込み、あのガーゼハンカチをポケットに入れて、夜のへと向かった。
ファミリーレストランの内は、曜の夜ということもあり、族連れや若者たちで賑わっていた。 その喧騒から最もれた、番奥のボックス席に、千はで座っていた。 テーブルのには、めきった珈琲が杯だけ置かれていた。
私が咲良を抱いてづくと、千は線をげ、眠っている咲良の顔をじっと見つめた。 その切れの瞳が、微かに揺れたのを私は見逃さなかった。
「……座りなさいよ」
私は会釈をし、咲良を起こさないように細の注を払いながら、ソファに腰をろした。
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咲良を自分の膝のに乗せ、毛布をかけ直す。
千は、私ので汚れたズボンの膝と、充血した目を見つめた、ふっと自嘲気に息を漏らした。
「本当に、けない顔ね」
「……すみません」
「私がっている相原俊は、いつも背筋を伸ばして、を見して、自分が絶対に正しいと信じて疑わない男だったわ。……まさか、あなたがそんな顔をするなんてね」
千はバッグのから、通の封筒を取りした。 茶封筒ではなく、淡い桜の、し質なでできただった。 消印には、静岡県の名が押されていた。
「茜はね」 千はの表面を指先でなぞりながら、静かに語り始めた。 「あの夜、裸のまま私の部に転がり込んできた、週ほどをして寝込んだわ。産の処置も途半端なままたいのをったんだから、当然よ。は命が危ないところまでいった」
私は膝ので、無識に拳を握りしめた。
「ががった、あの子は抜け殻のようになったわ。警察にこう、弁護士をてようって、私が何度言っても首を横に振るばかりでね。『俊さんとお義母さんには敵わない。あのたちはおもあって、世体もあって、私を異常者にしたてげる類まで持っている。争ったら、咲良が傷つくだけだ』って」
千の瞳に、静かなりとしみが滲む。
「あの子はね、自分が母親として未熟だったから、が子を守れなかったんだとい込んでしまったのよ。だから、私のりいを頼って、誰も自分の過をらない所へくことを選んだの。
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