"一度も抱かれなかった娘" 第24話
い沈黙の、擦れの音がした。 「をおげください、相原様」
顔をげると、望助産師の表から、あの徹な厳しさが消えていた。 彼女は机のに置かれた受領を丁寧に引き寄せ、引きしから冊のクリアファイルを取りした。
には、あの黄ばんだ『母子同申請』が、綺麗にラミネート加されて収められていた。
「当院の規定、原本の破棄は必ですが、院の特別許を取り、原本の精密なカラー複製を作成いたしました」 望は、そのファイルを両で私に差しした。 「これは、医療記録であると同に、あの、の母親が命がけで遺した、の証です。咲良ちゃんがきくなった、どうか渡してあげてください」
「……ありがとうございます」 ファイルを受け取る私のが、い涙で濡れた。
「相原様」 部をようとする私に、望助産師が柔らかい声をかけた。 「、おでお嬢さんを育ててこられたこと、その苦労までがすべて嘘だったわけではありません。は誰でも過ちを犯します。切なのは、その過ちから逃げずに、誰のためにき直すかです」
私はく礼し、病院をにした。 の柔らかな差しが、コンクリートの建物をかく照らししていた。
それからの数週、私たちの活はしずつ、けれど確実に変わっていった。
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咲良との関係が、魔法のように元通りになったわけではない。 咲良は折、でぼんやりと窓のを眺めるようになり、私と目をわせるのをためらう瞬もあった。 歳の子どものに刻まれた傷は、真実をかしたからといってすぐに消えるものではなかった。
それでも、嘘のに築かれていた脆い平穏は消えり、私たちはぎこちなくも、本当の族としての歩みを始めていた。
私はリビングの壁に、さな写真てを置いた。 あのラミネート加された申請と、あのピンクの刺繍が入ったガーゼハンカチを、綺麗に額装して飾ったのだ。 咲良は毎朝、保育園へくに、その額縁のガラスをさな指先でそっと撫でるのが課になった。
そして、私は千を通じて、静岡の茜宛に通の包を送った。 には、咲良がまれてからのを記録した冊のアルバム。 保育園の連絡帳のコピー。 咲良が描いた、「好きな」の絵——のではなく、とりどりのに囲まれた、い髪の女のの絵。
そして、私のい告と謝罪のだった。 親権を争うつもりはないこと。 咲良が母親に会いたいと願った、いつでも、どんな形でも会わせる約束をすること。 これまでのすべての非を認め、茜が望むあらゆる条件を受け入れること。
包を送ってから、ヶが過ぎた。
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返事は、まだ来なかった。 千によれば、茜はその包を受け取った、温の隅でアルバムを抱きしめて泣いていたという。 「あの子には、が必なのよ。の空は、そう簡単には埋まらないわ」 千は話でそう言った。 私は「分かっています」と答えた。待つことこそが、私に課せられた罰であり、誠だった。
季節は巡り、の旬。 初の爽やかなが、の青葉を揺らす季節になっていた。
曜、保育園で「族参観」が催された。 母のにわせた事で、園庭には保護者たちが集まり、子どもたちが作りのプレゼントを渡すことになっていた。
以の私なら、周囲の母親たちの輪を避けるように、咲良とだけでに帰についていただろう。 「母親のいないな子」と見られるのを恐れ、見栄を張って平然を装っていただろう。
だが、今の私は違っていた。
園庭の片隅、にち、私は咲良の姿を見守っていた。 胸元に赤いカーネーションのバッジをつけた咲良が、お友達とを繋いで並んでいる。 咲良のさな首からは、筒と緒に、綺麗に洗濯されたあのガーゼハンカチが、誇らしげに掛けられていた。
「パパ!」
事が終わり、園児たちが斉に保護者の元へ駆け寄ってくる。 咲良が、私の元へってきた。 そのには、画用で作られたさなメダルが握られていた。
「これ、パパに!」 咲良が差ししたメダルには、黄いクレヨンで、歪な王冠の絵が描かれていた。
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