"ゴミ箱の隣に座る学年一位" 第4話
以なら、探す必もありませんでした。 教卓の真ん、黒板の央が見える最列に、いつも背筋をピンと伸ばしたの背があったからです。 しかし今、その席に座っているのは、野球部らしき坊主の男子徒でした。
私の線は、教の、番奥へと吸い寄せられていきました。
ありました。 教の番ろ。すぐろには掃除用具入れのロッカーと、青い型のプラスチック製ゴミ箱が置かれている、暗い角の席。 そこに、が座っていました。
はいつものように、姿勢正しくノートを取っていました。 先の板を文字も逃すまいと、折顔をげ、真剣にペンをらせています。 その姿は、以と何つ変わらない、私の自の娘でした。
ですが、私の目は、の姿ではなく、その「隣」に釘付けになりました。
の座る窓際から数えて番端の席。 そのすぐ隣に、もうつの机が並んでいました。
そこには、誰も座っていませんでした。
子はきちんと机のに引かれ、机のには教科もノートも箱も置かれていません。 それだけではありませんでした。 その机には、の徒たちの机には必ずあるはずのものが、何つなかったのです。 横のフックにかけられた体操着袋も、元に置かれた通学カバンも、引きしののノートの冊すらも。
広告
まるで、い誰も使っていないかのように、がらんとした空だけがそこに取り残されていました。
「……?」
私は眉をひそめました。 邪で欠席している徒の席なら、カバンや私物がどこかに残っているはずです。 あるいは、机のにプリントの枚でも置かれていて然るべきでした。 しかし、その机は完全に「空」でした。 机の目にはうっすらと埃が積もっているようにすら見え、その机の周囲だけ、ぽっかりとが止まっているような異様な気配を放っていました。
そして何より奇妙だったのは、授業のの様子でした。
はノートを取りながら、ほんの数分おきに、ふっと線をへ……その誰もいない空の机へと滑らせていたのです。 まるで、そこに誰かが座っているかのように。 あるいは、誰かが今にも教のろのドアから入ってくるのを、息を潜めて待っているかのように。
チャイムが鳴り、現代文の授業が終を告げました。
「起、礼」
号令がかかり、徒たちが斉にちがってをげます。 授業が終わると同に、保護者たちが談笑しながら教をていきました。 私は波に逆らうようにして教のろドアの脇にち、がてくるのを待ちました。
しかし、は席をとうとしませんでした。 休みになり、の徒たちが楽しそうに連れってトイレや自販に向かう、は、文庫本をいて静かに文字を追っていました。
広告
そして、折、机の引きしからさなウエットティッシュを取りすと、誰も座っていないはずの隣の机の板を、丁寧に、埃を拭いるように拭いたのです。
その仕を見た瞬、私の胸の奥で何かが張り裂けそうになりました。
あんな席に追いやられて。 友達とも交わらず、ゴミ箱の隣で、誰もいない机を甲斐甲斐しく拭いている。 これが、私の娘なの? これが、学トップで、将来を期待されていたの姿なの?
「さんのお母様」
く落ち着いた声に呼び止められ、私はハッとに返りました。 振り返ると、教卓でプリントをまとめていた松井先が、廊にてきて私のにっていました。
廊をき交う保護者たちの音がざかり、静けさが戻りつつありました。 私は震える指先で、教の奥にあるあの空の机を指差しました。
「松井先。あそこです」 「……」 「あの、の隣にある机は何ですか? 誰の席なんですか?」
松井先は私の剣幕に圧されたように、わずかに息を呑みました。 そして、廊の窓のに線を逸らしました。 の乾いた空気が、のにく横たわっていました。
「……あそこには、誰も座っていません」 「見れば分かります! 私が聞いているのは、なぜ誰も座っていない机が、の隣にあるのかということです。徒がりないなら、あの机を片付けて、の席をもっとの、央寄りにかすことだってできたはずでしょう? なぜ、あんなゴミ箱の隣に、使われてもいない机と緒に、を押し込めているんですか!」
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 0 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 0