"ゴミ箱の隣に座る学年一位" 第16話
の声が、絶望な静けさを取り戻していきました。
「真優ちゃんが戻ってこられるようにってったのは本当。でもね……あの空っぽの机は、私の盾だったの。あの机があるから、私の隣には誰も来ない。あの机があるから、私はで、息を潜めていられるの……! あれは、私の席なんだよ! 真優ちゃんと私の、だけの、息ができる所なんだよ!」
は散らばった推薦の残骸を抱きしめ、うずくまりました。
「それを……お母さんは、また奪うんだね。また私を、あの息のできない番に引きずり戻して、見せ物にするんだね……」
リビングには、のく途切れ途切れのすすり泣きと、窓を叩く激しいの音だけが残されました。
私は歩もけませんでした。 元には、私が誇りにしてきた賞状のが、まるで誰かの墓標のように散らばっていました。 娘の血で滲んだ袖。 掻き毟られた腕。
『ちゃん、何かやらかしたの?』 スーパーでさんの母親が浮かべていた、あの浅ましい好奇の笑顔。 それに怯え、世体を守るために、私は娘の首を絞め続けていた。 私が守りたかったのはの未来ではなく、というトロフィーを抱えた「派な母親」としての、私自のプライドだった。
吐き気がしました。 自分の醜悪さに、胃の底から酸っぱいものがせりがってきました。
広告
の朝分。 教のたい声が、のでリフレインしました。
『本が現れなければ、用務員を使ってあの空机はそので撤します。その、さんの座席は元の最列央へ戻す』
タイムリミットまで、あと。
計の秒針が、残酷な規則正しさでを刻んでいました。 にうずくまる娘の、あまりにもさく、あまりにも脆い背を見つめながら、私は自分のえ切った両を、ただ血の気が引くほどく握りしめることしかできませんでした。
曜の夜、私はもできませんでした。
リビングのに散らばった、つ裂きの推薦。 そのい片を、私は夜けの暗い部で、枚ずつ、指先を震わせながら拾い集めていました。 糊で貼りわせるためではありません。 自分が娘の魂をどれほど残酷に引き裂いてきたのか、その罪のさを、つひとつの破片を通してこのに刻みつけるためでした。
百点の答案用。 賞の賞状。 全国模試のA判定。 かつて私のきがいであり、私の誇りだったそれらは、今やただのたい屑にしか見えませんでした。 あの子は、この切れ枚枚に、自分の血を擦り込みながらきてきたのです。 皮膚を掻き毟り、肉をえぐり、激痛と血の匂いでパニックを抑え込みながら、私の笑顔のためだけに「番」
広告
に座り続けていた。
午、階からかすかな音が聞こえてきました。
私は息を殺して階段のを見げました。 りてきたは、すでに制を着ていました。 季節れのの袖カーディガンを羽織り、両は首まできっちりと袖のに隠されていました。 昨夜激しく泣き叫んだ痕跡は、赤く腫れたまぶたの奥に押し込められ、その表は再び、あのを失った形のようになっていました。
「……」
私が掠れた声で呼ぶと、はピクリと肩を揺らしましたが、私の方を見ようとはしませんでした。 リビングを素通りし、玄関へ向かおうとします。
「ご飯、しだけでも……お噌汁、温かいのあるから」
私の必の呼びかけに、は背を向けたまま、乾いた声で答えました。
「いらない」
それだけでした。 靴を履き、カバンを肩にかけ、玄関のドアノブにを伸ばす。 その首の隙から、昨夜私がドラッグストアで買っておき、ドアノブにそっとげておいたガーゼと包帯が、器用に巻かれているのが見えました。 自分で巻いたのでしょう。し曲がった包帯のい端が、私の胸を抉るように痛めつけました。
「……ってきます」
は振り返ることなく、のたい朝の空気のへと消えていきました。 ガチャリと閉まったドアの音。
計の針は、午分を指していました。
運命の曜。 教が宣告したタイムリミット――午分まで、あと分。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 0 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 0