"義母の合鍵が入らない" 第22話
の眩しいが、暗い玄関のに差し込みました。
「健! あんた、体どういうつもりなのよ!」
ドアがいた瞬、義母の切り声が廊に炸裂しました。 義母は履き慣れたサンダルを蹴りすようにして、のままへ踏み込もうとしました。
けれど、そのは空で止まりました。
健が、玄関の敷居の真にちはだかっていたからです。 彼はドアを全にはせず、自分の体つが通れるだけの隙を作り、両をしっかりとの縁につけて、母親の侵入経を完全に塞いでいました。
「……母さん」
健の声はく、張り詰めていました。
「なによ、その顔は! 親の顔を見ても『退院おめでとう』の言もないの!? あんた、病院に顔もさないで、親戚のグループチャットを勝に退会して……親戚が騒ぎよ! 信子叔母さんも、おじさんも、あんたのことを恩らずだってり狂ってるわ!」
義母はに持っていたたいデパートの袋を、無理やりのに押し込もうとしました。
「ほら、これ! あんたの好きな級料亭の京焼きと、いメロンよ! 退院祝いに親戚からもらったんだけど、健にべさせてあげようとって、わざわざいいをしてに乗ってきたのよ! そこを通しなさい! くに入って、あの子にもきっちり話をつけるんだから!」
広告
義母は健の肩を押し退けようと、を伸ばしました。
「やめてくれ、母さん」
健は、母親の首を空でしっかりと掴みました。 乱暴に握りつぶすのではなく、けれどミリもへませない、静かで固な力でした。
義母のきが、ぴたりと止まりました。 まれて初めて息子にを掴まれ、制止されたという事実が、義母の脳を麻痺させたようでした。
「……健? あんた、母親にをあげる気?」
「をあげてなんかないよ」
健は母親の目を、まっすぐに見据えていました。 その線は度も逸れませんでした。
「母さん。その荷物は受け取れない。そして、母さんをこのに入れることもできない」
「な……なんですって……!?」
義母の声が裏返り、顔が気に朱に染まりました。
「あんた、自分が何を言ってるのか分かってるの!? 私が誰だとってるのよ! あんたを産んで、女つで育てげた実の母親よ!? その母親を、こんな玄関先で追い返すっていうの!? あの女の差しね! 由! 由さん、そこにいるんでしょう! てきなさいよ! 夫を盾にしてコソコソ隠れてないで、顔を見せなさい!」
義母は健の肩越しに、リビングの奥へ向かって叫びました。 その品で暴力な声を聞きながら、私はリビングの引き戸ので、静かに腕を組んでいました。 私のは歩もきませんでした。
広告
かつてなら、恐怖と罪悪でびしていき、「お義母さん、すみません」とをげていたでしょう。 けれど今は、違いました。 この戦いは、健が自分のを清算するための儀式なのだと、確信していたからです。
「由を呼ぶな!」
健が、廊に響き渡る声をげました。 それは、私が緒に暮らしてきて、度もにしたことのない、腹の底から絞りされた声でした。
義母がぎょっとして息を呑み、言葉を失いました。 廊の空気が、瞬で凍りつきました。
「由は関係ない! 全部、俺が決めたことだ!」
健の肩が、激しくしていました。 けれど、彼の目は揺れていませんでした。
「母さん。俺は曜の午、病院にったよ」
「……え?」
「〇号のドアのまでった。から母さんと信子叔母さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきたよ。『救急ので息を荒くしてやった』『男なんて母親のところに戻ってくる』『倒れたふりをすれば嫁が泣き寝入りする』……全部、こので聞いたんだ」
義母の顔から、さっと血の気が引いていきました。 朱だった頬が、見る見るうちに気へと変わっていきました。 彼女の唇が刻みに震え、線があちこちを彷徨いました。
「そ、それは……あんた、聞き違いよ……! 私は本当に胸が苦しくて……!」
「嘘をつくな!」
健は母親の首を静かにし、歩、廊へと踏みしました。
敷居を越え、母親と対等の目線にったのです。
「母さんは病気なんかじゃなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第18話
診察室に入れなかった私
妊娠七ヶ月、甲斐甲斐しく尽くす夫の言葉に従い、私は毎回待合室で温かい茶を飲んで待っていた。「異常なし」と笑う夫を疑ったことはない。だが夫が仕事で不在となり、初めて一人で診察室に入ると、医師は冷徹な面持ちで私を見据えた。向けられたパソコンの画面には、私が頑なに治療を拒み、夫が必死に説得したという記録が三回連続で並んでいた。その三回とも、私は一度も診察室に足を踏み入れていない。裡切られた|夫婦|裡の顔|修羅場2.8万字5 0 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 0