"義母の合鍵が入らない" 第24話
という迷いが渦巻いていました。
「由……俺、言ったよ……」
掠れた声でした。
「母さんに……全部言った……。もう、あいつをには入れない……」
私は何も言わず、台所へ戻りました。 蔵庫から麦茶を取りし、グラスに注ぎました。 氷をつだけ浮かべ、再び玄関へ戻り、健の目のに差ししました。
「健さん」
健はおずおずとグラスを受け取りました。 たいガラスの触に触れた瞬、彼の張り詰めていた神経がふっと緩んだようでした。 彼は両でグラスを握りしめ、喉を鳴らして気にみ干しました。
「……ありがとう」
空になったグラスを胸元に抱え、健は静かに涙を流し始めました。 声をげて泣くのではありませんでした。 ただ、子供のように肩を震わせ、静かに涙を零していました。
母親を拒絶したことの痛み。 親孝者になってしまったという恐怖。 そして、苦しめ続けてきた妻に対する、取り返しのつかない申し訳なさ。 そのすべてが、涙となって流れているようでした。
私は、彼の隣に腰をろしました。 背を抱きしめるような真似はしませんでした。 ただ、の段差に並んで座り、を見つめました。
「怖かった?」
私が静かに尋ねると、健はさく頷きました。
「……ぬほど怖かった。臓が止まるかとったよ」
「そう。……よく逃げなかったわね」
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私のい言葉に、健は顔を覆っていたをし、濡れた目で私を見ました。
「由……俺を、許してくれるか?」
私はしだけ考えてから、ゆっくりと首を横に振りました。
「今起きたことだけで、過のの傷が全部消えるわけじゃないわ。私が流した涙も、に濡れた机のシミも、なかったことにはならない」
健の顔に、痛なが落ちました。 けれど、私は言葉を続けました。
「でもね。今のあなたの背は……ちゃんと、私の夫の背だったわ」
健の呼吸が止まりました。 彼の目から、再びしい涙が溢れしました。
「部の荷物、解くのを伝ってくれる?」
私がちがり、リビングを振り返りながらそう言うと、健は袖で乱暴に涙を拭い、力く頷きました。
「うん……! 伝うよ、全部!」
そのの午、私たちはリビングに積まれていたつの段ボール箱をけました。
カッターナイフでガムテープを裂くよい音が、初の部に響きました。 丁寧に緩衝材に包んでいた欧のクッションカバーを取りし、ソファに並べました。 私の文庫本を本棚に戻し、益子焼のマグカップをキッチンの定位置に並べました。
そして、ダイニングテーブルのにあった、あの産の入居審査申込。 健が「これはどうする?」とそうに尋ねてきました。
私はそのをに取り、健の目ので、真んから真っつに破りました。
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さらにつに裂き、ゴミ箱へと落としました。
「キャンセル料は勉代ね。もう、この部をてく必はなくなったから」
健の顔に、今初めて、からのるい笑顔が広がりました。
次に私たちは、義母が持ち込んだあの黒りする苦しい飾り棚をかしました。 で息をわせ、「せーの」と声を掛けいながら、リビングの隅へと運びました。 義父の形見だというその棚は、週けに義実宛ての宅配便を配して、送り返すことに決めました。 先祖を供養する気持ちは切ですが、それを理由にの活空を侵することは、決して許されないからです。
そして、空いた窓際の特等席に、あのウォールナットの机を引き戻しました。
板には、が染み込んで毛羽ってしまった、痛々しいシミが残っていました。 健はホームセンターへり、用のやすりと、然由来の具用ワックスを買ってきました。
「俺にやらせてくれ」
健はそう言って、に聞を敷き、汗だくになりながら丁寧に板をやすりがけしました。 ゴシゴシと、乾いた規則な音がリビングに響きます。 傷ついた表面が層削り取られ、いがいました。
そのから、私が布を使ってワックスを塗り込んでいきました。 目の奥くまでオイルが染み渡るにつれて、く濁っていたウォールナットのい焦げ茶が、しっとりとした美しい艶を取り戻していきました。
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