"義母の合鍵が入らない" 第25話
完全には消えなかった、わずかな窪みやシミ。 けれどそれは、もう「屈辱の記憶」ではありませんでした。 私たちが度壊れかけ、そして境界線を取り戻したという、このの歴史の傷痕でした。
作業が終わったのは、夕暮れでした。 が窓から差し込み、しく磨きげられた机の板を、黄に優しく照らしていました。
私はその机のにち、のひらでそっとの表面を撫でました。 滑らかで、温かい触が、指先から胸の奥へと伝わってきました。
私の居所が、帰ってきたのだと、実しました。
それから、ヶのが流れました。
季節は初から、蝉の声がり注ぐ盛へと移り変わっていました。
義母との関係は、劇に修復されたわけではありません。 あの曜以来、義母から健のスマートフォンには、折、当てつけのようなメッセージが届きます。 『症になりかけたけれど、で耐えました』 『親戚の集まりで、健が来ない理由を聞かれて肩が狭かったわ』
かつての健なら、その通を見るだけで真っ青になり、慌てて話をかけていたでしょう。 けれど今の健は、画面を瞥し、「症には気をつけてください」とだけ事務に返信して、スマートフォンを伏せるようになりました。
罪悪が完全に消えたわけではないのだと、彼は言います。
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々、胸がチクチクと痛み、自分がたいになったのではないかとになることもあるそうです。 けれど彼は、その痛みを私に押し付けることはしませんでした。 自分の責任として引き受け、で散歩にかけたり、ベランダの植物にをやったりしながら、そのをやり過ごす術を学んでいきました。
親れとは、瞬の決断ではなく、々の活ので何度も何度も「ノー」を言い続ける、で孤独な脱作の訓練なのだということを、健はをもって実践していました。
そして、がの景も、しずつ変わっていきました。
リビングの掃きし窓には、私がずっと憧れていた、淡いグレージュの麻のカーテンが揺れていました。 義母が選んだあの柄なアイボリーの布は、綺麗に洗濯して義実へ送り返しました。 朝のがグレージュの布を通して部を満たすたび、私のには静かならぎが広がります。
玄関には、私が選んだマスタードイエローのさなギャッベのマットが敷かれました。 鍵置きには、もう鍵は置かれていません。 けれど、暗証番号をるがドアをけるたび、ピピッ、カチャリという子音が、私たちがに入れた「全」の証として、よく響きます。
曜の午。
窓際のウォールナットの机で、私はノートパソコンをき、来週のプレゼン資料の推敲をしていました。
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ふと線をげると、キッチンのカウンターで、健が慣れないつきでドリップコーヒーを淹れていました。
「由、そろそろ休憩にする? しい豆、買ってきたんだ」
健が、益子焼のマグカップをつ持って、こちらへ歩いてきました。 部のには、ばしい珈琲のりがふわりと満ちていました。
「ありがとう、健さん」
私はパソコンを閉じ、温かいマグカップを受け取りました。 カップの底からちる湯気を眺めながら、ベランダの青空を見げました。
私たちの活は、完璧になったわけではありません。 義母からの干渉の種は、これからも形を変えて燻り続けるでしょうし、健が再び気になりそうになる夜も訪れるかもしれません。
けれど、もう恐れることはありませんでした。
このには、けていい扉と、閉ざすべき扉がある。 そして、その鍵を握っているのは、の顔を伺う霊ではなく、私たちなのだということを、私たちはもうっているからです。
窓から吹き込むが、カーテンを柔らかく揺らしました。 私は、煎りのコーヒーをに含み、目のでし照れくさそうに笑う夫に向かって、からの穏やかな微笑みを返しました。
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