"三十二人目の卒業写真" 第3話
僕たちのクラスは、最初から最までです。誰欠けてないし、誰も余計なやつなんていませんでしたよ。先が番よく分かってるはずじゃないですか」
『誰も余計なやつなんていませんでしたよ。』
その言葉が、私の鼓膜をたく突き刺した。 悪気のない、純粋な事実としての断言。藤にとって、それは疑う余すらなかった「真実」なのだ。
「……そうか。そうだったな。すまない、私がし勘違いしていたようだ」 「もう、脅かさないでくださいよ。定退職した途端にボケちゃ困りますからね! またみんなで集まりましょう」
話を切り、受話器を置いた。 のひらに、べっとりと嫌な汗がにじんでいた。
藤は嘘をついているではなかった。底から議そうにしていた。 の歳は、の記憶を都よく列させる。記録にないものは、記憶からも消えていく。それが学という組織の、そしてというき物の防本能なのかもしれない。
だが、私は諦めきれなかった。 あのは現実にここにする。 誰かが昨夜、あの会で、あの袋に滑り込ませたのだ。の徒の誰かが、あるいは、彼らの姿を借りた誰かが。
私はプリントの次の名に目を落とした。 鈴恵子。 当は保健委員を務めていて、細やかな気配りができるびた女だった。
広告
現は結婚して児の母になっていると昨夜話していた。
ダイヤルを回す。 数回のコールの、落ち着いた女性の声がた。
「もしもし、佐藤ですが」 「あ、鈴……いや、佐藤さんかい。藤田です」 「あら、先! おはようございます。昨は本当に素敵な会でしたね」 「ああ、君と話せて嬉しかったよ。……あのな、鈴さん。朝から躾な質問で本当に申し訳ないんだが、つだけ、どうしてもいせないことがあってね」
私は藤のよりも、さらに慎に、探るように言葉を紡いだ。
「君は保健委員だったから、覚えているかもしれないとってね。卒業式のし……卒業アルバムの撮のだ。邪か何かで、別で待させていた女子徒がいただろう。ほら、記撮に入れなかった……」
そこまで言った、鈴がさく息を呑む配配が伝わってきた。 だが、返ってきた声は、困惑に満ちていた。
「え……? 別ですか? でも先、私たちのクラス、写真撮のは全員席だったはずですよ」 「……本当に、そうだったかい?」 「はい。だって、アルバムを見ればわかりますよね。もし休んだ子がいたら、のほうに丸い枠で別撮りの写真が入るじゃないですか。私たちのクラス、あれがつもなくて、みんなで『全員揃ってよかったね』って話した記憶がありますけど……」 「そう……だったかな」 「先、本当にどうされたんですか? 誰か……別の学の子と違えていらっしゃいませんか?」
広告
「……いや。すまない、私の記憶違いのようだ。変なことを訊いてしまって悪かったね」
に礼を言って話を切った。 受話器を置くが、微かに震えていた。
『全員揃ってよかったね』。 その記憶もまた、正しい。子供たちにとっては、それが公式の現実だったのだ。 丸い枠で囲まれた顔写真など、あのアルバムのどこにもない。欠席者は「ゼロ」だった。最初から、そのものを勘定に入れなければ、欠席者などるはずがないのだ。
私がやったのだ。 のあの、あの朝に。
誰も覚えていない。 藤も、鈴も。 彼らは私を慕い、完璧な恩師として送りしてくれた。全員が揃った、模範な美しいクラスの担任として。 だが、その「美しさ」の裏に何が埋められていたのか、彼らは本当に全員が忘れてしまったのだろうか。
計の針は正午を指そうとしていた。 私は連絡先プリントの、から番目にある名に線を止めた。
宮田。 当は副委員を務めていた男だ。 目たないだった。成績は優秀だったが、自己主張をせず、いつも教の隅から静かに周囲を観察しているようなところがあった。昨夜の会でも、盛りがる輪からしれた席で、静かにビールグラスを傾けていた。現は隣町の区役所で、戸籍や福祉関係の窓業務に就いていると聞いていた。
私は迷いを振り払うように、番号を押した。
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 0 -
完結第12話
社長夫人と平社員の妻
夫が勤める製造会社の先代社長の遺児であり、全株式の六割を握る筆頭株主である白石遥。彼女はその正体を隠し、現場社員の妻として慎ましく暮らしていた。しかし、先代の跡を継いだ新社長の妻・藤崎麗華は、夫が平社員である遥を見下し、婦人会の席で髪を掴んで「奴隷」と罵倒する。耐えかねた遥が「では、社長を解任します」と告げると、麗華はあざ笑うのだった。数日後、遥の名の入った「臨時株主総会招集請求書」が会社に届き、夫が密かに集めていた四千万円の不正流用の証拠が突きつけられる。窮地に陥った社長夫婦の前に、本当の支配者の正体が暴かれるとき、冷酷な因果応報の幕が上がる。職場逆転|因果応報1.8万字5 112 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2460 -
完結第22話
恩人弁護士の不可解な書類
満員電車の切り取り動画で炎上し、派遣先を不当解雇された私を、着手金ゼロで救ってくれたのは小さな事務所の弁護士だった。彼の尽力で示談を勝ち取り日常を取り戻した二ヶ月後、私は元上司のパワハラを訴えた見知らぬ後輩の裁判資料を目にする。そこには、私が弁護士の相談室で泣きながら話したはずの告白が、そのまま証拠として並んでいた。震える手で開いたその裁判記録の送達先には、私を救った恩人弁護士の事務所名が記されていた。職場逆転|因果応報|裡切られた|怒り3.4万字5 242 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 40 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 866 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 11 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 22 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 21