みかん小説
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"三十二人目の卒業写真" 第8話

「藤田先、君のクラスで預かってやってくれないか」 は私に言った。

「公な転入処理はできない。教科も無償与の枠からはせない。学籍簿にも載せられない。だが……教育を受けさせる権利まで、の都で奪うわけにはいかん。幸い、君のクラスはで、教の広さにはし余裕がある。『見学者』という名目で、席をつ用してやってほしい」

それが、すべての始まりだった。

葵は、教ろの列、窓際の席に座ることになった。 おがりのはげかけた机と、しガタつく子。 教科は、職員架に眠っていた古い指導用の余りを私が面した。

彼女は、驚くほどのかからない子供だった。 なりは決して豊かではなかったが、につけているにはいつも丁寧に継ぎ当てがされ、鹸の清潔な匂いがした。 毎朝、誰よりもく登し、黒板を綺麗に拭きげていた。授業は背筋を真っ直ぐに伸ばし、私の拙い板文字も漏らさずにノートにき写した。 は、配膳台の片付けを率先して伝った。

だが、彼女は自分からの子供たちの輪に入ることは決してしなかった。 休みになると、で静かに文庫本を読んでいるか、ノートの端に鉛さなの絵を描いていた。 まるで、自分がそこにしていること自体が誰かの迷惑になっていると、歳にして悟りきっているかのような、痛々しいまでの慎ましさだった。

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「先、私、勉が好きです」

あるの放課、算数のテストの解き直しを職員に持ってきなさいと言った、彼女ははにかむように笑ってそう言った。百点満点の答案用を、宝物のように両で抱きしめながら。

「学に来られて、本当によかった。先、ありがとうございます」

その笑顔を見た、私は若い正義に胸を震わせたものだった。 この子を守らなければならない。 遇な環境に置かれたこの女に、せめてこの教だけは、公平で温かい居所を作ってやるのだと。

だが、その「正義」の化けの皮は、卒業という現実をにして、あまりにも無惨に剥がれ落ちることになった。

けてもない頃だった。 しく着任した教が、職員の私のデスクに類の束を叩きつけた。

「藤田先、あのろの席の女の子のことだがね」 たい、無を言わさぬ調だった。

民票がないまま、もうも放置されているそうじゃないか。が温で認めたかなんだからんが、教育委員会から監査が入ったらどう責任を取るつもりだ? 無資格の児童を勝に公に通わせていたとなれば、学全体の管理責任問題になる」

「ですが教、あの子の庭環境は特殊でして……母親も必に働いて、なんとか活をて直そうと——」

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庭の事など関係ない。学は法に基づいて運営されているんだ。卒業式はどうするつもりだ? 卒業証は公文だぞ。学籍のないに、の公印を押した証せるわけがないだろう。卒業記アルバムだって同じだ。公費が投入されている記品に、学籍のない部者を紛れ込ませるわけにはいかない」

「アルバムにも、載せられないのですか……?」

私は愕然として教を見げた。 毎、同じ教で机を並べてきたのだ。 体育の授業で緒にり、唱コンクールで緒にい、を共にべたのだ。 写真枚すら、許されないというのか。

「当然だ。教育委員会に睨まれたら、君の教員としての将来だってどうなるか分からんぞ。初任者研修を終えたばかりの若いで、余計な傷をつけたいのか?」

のその言に、私の喉は完全に凍りついた。

私の、将来。 最初の学、最初の受け持ちクラス。ここで教育委員会に問題されれば、私の教員には最初から消えない汚点がつく。 その恐怖が、正義などというっぺらなを、瞬にして押し潰した。

私は抗議するのをやめた。 そして、自分ので最も都のいい「物語」を作りげたのだ。

——あの子を傷つけないために、配慮するのだ。 勢ので「あなたには卒業証がありません」と恥をかかせるより、最初から静かに別で待させてあげる方が、あの子にとっても優しいはずだ。

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