"三十二人目の卒業写真" 第9話
記写真の撮現で、カメラマンやの教員から「君は列に入らないで」と追い払われる屈辱をわわせるくらいなら、あらかじめ見えない所に匿ってあげるのが、担任としての最のいやりなのだ。
そうやって、私は自分の保を「優しさ」という障りのいい言葉で塗り固めた。
卒業アルバムの集写真を撮るの朝。 私はので彼女を待ち伏せ、教にがるに職員の奥、印刷と類棚に挟まれた暗い準備へと連れ込んだ。
「葵ちゃん、今はここにいてね。写真の撮が終わるまで、ここで待っているんだ」
葵は驚いたように目を見き、私を見つめた。 その瞳のあまりの透さに耐えかねて、私はポケットから、あの緑のライオンハッカ飴の缶を取りしたのだ。
「先……私、みんなと緒に並んじゃいけないの?」
さな声だった。りも、反抗も含まれていない、ただ事実を確かめるようなしい問いかけ。
「葵ちゃんのためなんだ」 私は彼女の肩にを置き、教員としての最も誠実そうな笑顔を作って見せた。
「の続きの都で、ないことを言うたちがいるんだよ。先はね、葵ちゃんがそんなことで傷つくのを見たくないんだ。だから、ここで静かに待っていてほしい。これは、先が葵ちゃんを守るための秘密の作戦なんだ」
広告
守るための、作戦。 なんて滑稽で、おぞましい嘘だったのだろう。
葵はそれ以、何も言わなかった。 ただ、渡されたハッカ飴の缶を両でしっかりと握りしめ、さく「はい」と頷いた。 私はその従順さに堵し、背を向けて教へとりに戻った。 そして、の徒たちをにして、平然とした顔で告げたのだ。
「葵さんは今朝、急にがてお休みです。残だけど、みんなで葵さんの分までしっかり笑って写真を撮ろう」
計の針がを回っていた。 私は駅の雑踏を抜けて、古びたビルの階にある『喫茶ロンド』の階段をりた。
カランコロンと、頼りないドアベルが鳴る。 内は暗く、煙の煙と焙煎された珈琲の苦いりが漂っていた。壁際の革張りのボックス席に、スーツ姿の宮田がで座っていた。元には付かずのブレンドコーヒーが置かれ、彼は線を落としたまま文庫本をめくっていた。
私がづくと、宮田は本を閉じ、静かに線をげた。 昨夜の同窓会で見せたしい表とはまるで違う、徹な役の目がそこにあった。
「……すまない、忙しいに」 私が向かいの席に腰をろすと、宮田はさく会釈しただけで、メニューを勧めることもしなかった。
「用件をにお願いします。分には戻らなければなりません」
広告
「ああ……昨夜の話のことで、どうしても君に確かめたいことがあってね」 私はを乗りし、声を潜めた。
「昨夜、過ぎに……私の自宅に非通で話をかけてきた男がいる。公衆話からだった」
宮田の眉が、わずかにいた。だが、驚いたではない。
「その男は、のあののことを……職員の奥で、あの子が泣きながらハッカ飴をべていたことを、っていたんだ。……宮田君、君なのか? あの話をかけてきたのは」
宮田はめた目で私をまっすぐに見つめ返した。 そして、からく息を吐いた。
「違いますと言ったら、先は信じるんですか?」
「君じゃないなら、誰なんだ。あの、あの子があそこにいたことをっているは……」
「僕がるわけないでしょう」 宮田はカップをに取り、めかけた珈琲をんだ。
「ただ、つだけ言わせてもらえば、先は昔からずっとピントがずれていますよ。昨夜、の数がおかしいと気づいた、先が真っ先に話をかけてきたのは藤でしたね」
「……ああ」
「藤に訊いて、どうするつもりだったんですか? あいつは昔から、先のお気に入りの優等で、クラスの『表の顔』だった男です。先の言うことを番に信じて、番疑わずに従ってきただ。あいつが覚えているはずがないでしょう。藤ののにある62組は、先が都よく編集して見せてやった『美しい』のままだ」
宮田の言葉は、鋭利な刃物のように私の胸を削り取った。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
二千四百万の罠と偽りの解雇
「もう入らなくていい。本日付で解雇だ」 月曜の朝、ゲートで社員証を弾かれた私に、上司は冷酷に告げた。四年間心血を注いだ再生企画の責任者名を横取りされた翌日、手渡されたのは理由なき『解雇通知書』。 理不尽に追放されかけた私だったが、内部監査から突如、私名義で申請された「二千四百八十万円」もの不正稟議の存在を告げられる。 窮地に立たされた私を陥れた者たちは知らなかった。私が社内でただ「会長」と呼ぶ女性の正体と、消されたはずのサーバーに残る決定的な記録を――。 「では、神矢会長を呼んでください」 私が録音を開始したスマホを置いた時、役員フロアの空気が一変する。職場逆転|真相2.1万字5 1150 -
完結第11話
妊婦を狙う老人と十一月の凶刃
「妊婦は立て!奇形が産まれるぞ!」 早朝の電車内、妊婦を怒鳴りつける老人に激昂し、詰め寄ってホームへ追い払った会社員の成瀬涼。だが座席の下に落ちていた老人の定期券の裏には、戦慄のメモが挟まれていた。 『十一月十七日 東都産婦人科 産ませるな 絶対に殺す』 日付は明後日。七年前に母を自死で失った涼は、その朝、病院の物陰で張り込む。午前九時十五分、現れた老人のポケットから閃いた一本の果物ナイフ。 電柱へ組み伏せた涼の背後から、駆け寄った妊婦の悲鳴が響く。 「お義父さん……!?」 老人が隠し続けた、血塗られた過去とは。怒り|真相1.7万字5 1098 -
完結第11話
運転手は何歳?教室に響く告発
「お前の父さんはバス運転手なのに、自分の歳も教えないのか」 算数のテストで一人だけ理不尽な赤バツをつけられ、教室で嘲笑された小三の息子。 問題は『あなたはバスの運転手です。運転手は何歳ですか』。息子が記した答えは、震える文字の「わかりません」だった。 去年の11月20日夜8時45分、豪雨の中で少年の命を救いながら、有力者の妻に理不尽な土下座を強いられた父の姿を、息子はずっと心に刻んでいたのだ。 迎えた授業参観。正装の制服姿で現れた父が教室で再生した一本のドラレコ映像が、仕組まれた嘘を暴き出す。 その時、涙を拭った息子が黒板の前で下した「決断」とは――。真相1.6万字5 1776 -
完結第23話
奪われた手柄と残された受領印
「開発担当の名前、成瀬君に変えておいたから」三ヶ月不眠不休で作った新システムの企画書から、友春の名前は消されていた。机の下で手を重ねる後輩と、冷たく婚約破棄を告げる霞。すべてを奪われ雨の夜に倒れた友春は、なぜか「あの会議の前日」に目を覚ます。 二度と他人の踏み台にはならない――友春は綿密な引き継ぎと受領印だけを残し、即日退職を叩きつけて姿を消した。 迎えた本番発表会、後輩が「見栄え」のために独断で削除した安全装置が、大観衆の前で最悪の暴走を始める。「頼む、戻って直してくれ!」すがる元上司に、友春が突きつけた言葉とは――。職場逆転|真相3.4万字5 215 -
完結第14話
式1時間前の略奪と百八十万円
「ごめん。結婚やめる。私この人と一緒になるから」 挙式まであと1時間。控室で純白のドレスを着た婚約者の隣に立っていたのは、家具職人の俺・蒼介の元上司だった。 新居のために手渡した180万円を持ち逃げされ、住まいも仕事も奪われ絶望の淵に立たされた俺。だがその時、息を切らして控室へ飛び込んできたのは、婚約者の妹・こよりだった。 大量の不在着信を残していた彼女の手には、姉が3週間前に交わしていた「別の賃貸契約書」が握られていた。 激昂する姉の前で、こよりは俺の冷え切った手を強く握り締め、真っ直ぐに言い放つ。 「じゃあ私が先輩を幸せにしても文句ないよね」夫婦|真相2.1万字5 370 -
完結第41話
無一文の清掃員に届いた出前丼(
「出ていけとは言わないけど、月6万じゃ足りないのよ」 父が遺した家も土地も兄夫婦に奪われ、実家で「居候の厄介者」と罵られる清掃員のみさえ。9年間の壮絶なワンオペ介護も義姉に「全部私たちがやった」と親戚中に嘘を吹聴され、反論すら許されない。 だが、父の一周忌の座敷で義姉が得意げに嘘を重ねていたその時、玄関の戸が開き、この街の頂点に立つ巨大企業の社長が喪服姿で姿を現す。男の腕に抱かれていたのは、底に藍色の焼き印が刻まれた「12年前の古い出前丼」だった――。 息を呑む親戚一同の前で、男は畳の上に丼を置き、冷ややかに告げた。 「このご家族は、私と彼女に何一つ関係ありません」相続|真相6.2万字5 311 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 198 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3192 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 2108