"三十二人目の卒業写真" 第13話
旧姓、林。 昨夜の同窓会で、幹事の藤を補佐し、あの通のを全員から回収してきな袋にまとめた、当の文芸委員の女子徒だ。 誰がどの封筒を入れ、どのタイミングであのい封筒が紛れ込んだのか。彼女なら、何かをっているかもしれない。
私は駅の公衆話から、野の自宅へ話をかけた。 呼びし音が数回鳴り、落ち着いた女性の声がた。
「もしもし、野です」 「あ、林さん……いや、野さんかい。藤田です」
受話器の向こうで、野が「あら」とさく声をあげた。 「先? どうされたんですか、改まって」
「すまないね、急に。実は昨夜、君が集めてくれたのことで、し確認したいことがあってね。今、駅のくにいるんだが、しだけ顔をわせられないだろうか」
野はし戸惑ったようだったが、「駅のスーパーの裏に、さな公園がありますから、そこなら」と応じてくれた。
分、児童公園のベンチで、私は野と向かいっていた。 休みの昼がり、砂ではさな子供たちが歓声をあげて遊んでいた。野は買い物袋を膝のに置き、のスプリングコートのポケットにを入れたまま、議そうに私を見ていた。
「の確認って、何ですか先? 誰か、名をき忘れていました?」
野の屈託のない問いかけに、私は胸の奥が痛んだ。
広告
彼女は、代の穏やかな主婦そのものだった。子供たちの楽しげな笑い声が、私たちのの穏な空気を際たせていた。
「……がね、通、かったんだ」 私はを決して切りした。
野の眉が、さくいた。 「かった……?」
「ああ。分のはずが、通あった。そのに、名のない、い封筒が混ざっていたんだよ」
野は目を瞬かせ、それから困ったように笑った。 「先、何をおっしゃってるんですか。私がずつ渡しで集めて、数もちゃんと数えましたよ。藤君にも確認してもらって、きっちり分、袋に入れたんです。通なんて、あるはずがありません」
「だが、現にあったんだ。……誰かが、からこっそり滑り込ませたのではないかい? 例えば、藤君とか」
『藤君』という名をした瞬、野の顔から笑みが完全に消え失せた。 公園の砂埃が、たいにいがった。
「……先」 野の声のトーンが、急速にくなった。
「先は、何のためにそんなことを調べているんですか?」
「何のためって……私は、ただ、誰がいたのかを確かめたくてね。そこにかれていた内容が、あまりにも……」
「かれていた内容?」 野は私を遮り、たい目で見据えた。
「『全員が卒業しました。私を残して』……そういてあったんでしょう?」
息が止まった。 臓が凍りつき、喉の奥がカラカラに乾いた。
広告
「な……なぜ、君がそれをっているんだ」
野はちがらなかった。ただ、膝のの買い物袋を握りしめる指に、ギリギリと力が込められていくのが見えた。ビニール袋が擦れる障りな音が響く。
「っていますよ。あのを袋に入れたのは、藤君です。私が入れさせました」
「君が……!?」
「ええ、そうですよ!」 野が突然、を爆発させた。 周囲の母親たちが驚いてこちらを振り返るのも構わず、彼女の目には粒の涙が盛りがっていた。
「先、どうして今さらそんなことを蒸し返すんですか! 、ずっと墓まで持っていく約束だったんじゃないですか!」
「墓まで、約束……? 体、何のことだ」
「とぼけないで!」 野の声が震えていた。りと、屈辱と、分の罪悪が綯い交ぜになった、痛切な叫びだった。
「私たちはね、全員っていたんですよ! 葵ちゃんが病気なんかじゃなかったことくらい! あの朝、先が葵ちゃんを職員に連れ込んで、鍵をかけるみたいにして閉じ込めたのを、私だって、藤君だって、みんな見ていたんです!」
界が激しく滅した。 藤も? あの、話で「誰も余計なやつなんていなかった」と笑っていた藤すらも?
「藤君は……覚えていないと……」
「覚えているに決まってるでしょう! 忘れたふりをしなきゃ、やってられないからですよ!」 野はコートの袖で乱暴に目元を拭った。
「先、忘れたんですか? あのの、私たちは唱コンクールで町の最優秀賞を獲ったんですよ。
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 0 -
完結第12話
社長夫人と平社員の妻
夫が勤める製造会社の先代社長の遺児であり、全株式の六割を握る筆頭株主である白石遥。彼女はその正体を隠し、現場社員の妻として慎ましく暮らしていた。しかし、先代の跡を継いだ新社長の妻・藤崎麗華は、夫が平社員である遥を見下し、婦人会の席で髪を掴んで「奴隷」と罵倒する。耐えかねた遥が「では、社長を解任します」と告げると、麗華はあざ笑うのだった。数日後、遥の名の入った「臨時株主総会招集請求書」が会社に届き、夫が密かに集めていた四千万円の不正流用の証拠が突きつけられる。窮地に陥った社長夫婦の前に、本当の支配者の正体が暴かれるとき、冷酷な因果応報の幕が上がる。職場逆転|因果応報1.8万字5 112 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2460 -
完結第22話
恩人弁護士の不可解な書類
満員電車の切り取り動画で炎上し、派遣先を不当解雇された私を、着手金ゼロで救ってくれたのは小さな事務所の弁護士だった。彼の尽力で示談を勝ち取り日常を取り戻した二ヶ月後、私は元上司のパワハラを訴えた見知らぬ後輩の裁判資料を目にする。そこには、私が弁護士の相談室で泣きながら話したはずの告白が、そのまま証拠として並んでいた。震える手で開いたその裁判記録の送達先には、私を救った恩人弁護士の事務所名が記されていた。職場逆転|因果応報|裡切られた|怒り3.4万字5 242 -
完結第14話
年商一兆円の父にワインをかけた婚約者
創業家の御曹司との顔合わせ当日。ボロ車で駆けつけた私の父を見た義母は、「貧乏人の娘が」と父の頭から赤ワインを浴びせかけた。婚約者も冷笑し、父を詐欺師呼ばわりしてロビーで土下座を迫る始末。 だが、父は一言も取り乱さず、静かにワインを拭った。 「この縁談はなかったことに」 指輪を投げ返し、父の向かった先は日本中が恐れる巨大財閥の最上階。傲慢な親子が信じていた“金と権力のルール”で、静かな断罪劇が幕を開ける。因果応報|人生逆転|金銭問題|修羅場2.1万字5 40 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 866 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 11 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 22 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 21