"三十二人目の卒業写真" 第16話
藤は作業台の脇にあった使い古された丸子を引き寄せ、私に背を向けるようにして腰をろした。 ポケットから煙を取りそうとして、い直したようにを引っ込める。
「先。あんたはさっき、あの子を探しして謝りたいって、野に言ったそうですね」
「……ああ。私は、自分がしたことのさから逃げていた。だから、今からでも——」
「やめてくれ」
藤の鋭い声が、のコンクリートにね返った。 彼はゆっくりとちがり、私に向き直った。その目は、徹な刃物のようだった。
「あんたは昔からそうだ。いつも自分のことしか考えていない。あの子を探しして、越しの謝罪をして、座でもするつもりですか? それで『自分は過ちを認めた派な教育者だ』とでもって、胸を撫でろすつもりですか?」
「そんなつもりは……」
「じゃあ何のためだ!」 藤が鳴った。首筋に太い血管が浮きがる。
「あの子が今、どこでどんな暮らしをしているかもらないくせに! 名を変えて、過を忘れて、ようやくに入れた穏やかな活があるかもしれないのに、そこに突然、昔自分を閉じ込めた学の担任がやってきて『悪かった』って泣きつくのか? それはあの子のためじゃない。あんたが、ぬに自分の良を綺麗にしておきたいだけの、度目の暴力だ!」
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息が詰まった。 言葉が、喉の奥で氷のように固まった。
藤の言葉は、私がの底で必に隠していた最も醜悪な願望を、容赦なく抉りしていた。 そうだった。 私は葵を救いたいのではなかった。 完璧な教師の最に残った、たったつの汚点。それを消しり、「誠実な」として自分を納得させたいだけだったのだ。
「……君の、言う通りだ」
掠れた声しかなかった。私は元のアスファルトを見つめることしかできなかった。
「私は……自分のことしか、考えていなかった。保のためにあの子を消し、今また、自分ののためにあの子を利用しようとしていた」
藤は荒い呼吸をえながら、私をじっと見つめていた。 りの奥に、い絶望が滲んでいた。
「先。あんたは、あの……のあの卒業式の、何が起きていたか、本当の半分もらないんだ」
藤はそう言うと、事務所の奥へ歩いていった。 古びたスチール製の事務机の引きしをけ、から冊の、端が茶く変したスケッチブックを取りしてきた。 表には、鉛でぎこちなく『62組 藤』とかれている。
藤はそのスケッチブックを、私のの作業台のに無造作に置いた。
「見ろよ」
私は震える指で、いの表をめくった。 はほとんどがだった。だが、最から枚目のページに、折りたたまれた枚の藁半が挟まれていた。
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算数の計算ドリルの裏だった。
そこに、鉛で描かれていたのは——教の集写真だった。
列、列、列。 角い枠のに、の子供たちと、真んに座る私の姿が、稚拙だが特徴を捉えた致で描かれていた。藤の丸鏡、宮田の神経質そうな目元、鈴の結んだ髪。 子供たちの制には、鉛で丁寧に青や黒のが塗られていた。
だが、最列の、番端——。 窓際の席のすぐろに、もう、さな女の子の姿が描きされていた。 その女の子だけには、が塗られていなかった。 い鉛の輪郭線だけで、消しゴムで消え入りそうなほど頼りなく、そこにっていた。
絵のには、さな丸っこい文字で、こう記されていた。
『62組 全員 32』
「これは……」 私の界が、急激に歪んだ。
「あの、昼休みですよ」 藤の声が、静かに内に響き始めた。
「卒業式が終わって、庭で保護者も交えて写真を撮って、みんなが教に戻って饅を配られていただ。先は俺を職員に呼んで、こう言いましたよね。『藤、葵ちゃんのランドセルと、残っていた荷物を職員に届けてくれ。誰にも見つからないようにな』って」
記憶の扉が、音をてていた。 そうだ。私はあの、教に葵の私物が残っているのを恐れ、隣の席だった藤にその回収を命じたのだ。
「俺は、あいつのランドセルと、机の横にかかっていた袋を持って、職員の奥の準備にきました。
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