みかん小説
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"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第3話

母がくなってからのも、美はその送を止めることができなかった。それは親孝などという美しいものではなく、母の葬儀を放棄した自分に対する、罪滅ぼしのような儀式だった。

だが、あの偏屈な父が、そのに気づいているのか、あるいはをつけているのかどうかすら、美にはる由もなかった。

子育てに追われ、パートのシフトをこなし、宅ローンの繰りげ返済の計算に追われる慌ただしい毎。美はその忙しさを防壁にして、故郷と父という苦しい現実から目を背け、頑丈な蓋をし続けてきたのだ。

その偽りの平穏が音をてて崩れったのは、枯らしがを揺らし始めた、あるの午のことだった。

スーパーのレジ打ちのパートを終え、エコバッグを抱えて玄関のドアをけた瞬、居の固定話が甲い呼びし音を鳴り響かせた。靴を脱ぎ捨て、胸騒ぎを覚えながら受話器を取る。

「はい、森田ですが……」

受話器の向こうから返ってきたのは、い沈黙だった。やがて、くかすれた、しかし聞き覚えのある老女の声が朶を打った。

『……美ちゃんかい? 久しぶりだねぇ』

ぶりににする、隣む叔母・節子の声だった。そのく沈んだ声音を聞いた瞬、美臓は嫌な予がり、背筋にたい汗が流れた。

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「叔母さん……? ご無汰しております。あの、何かあったんですか」

受話器を握る指先にく力がこもる。節子は話の向こうでいため息を吐きすと、躊躇いがちに言葉を継いだ。

『お父さんね……さっき、畑で転んだのよ』

は息を呑み、そのち尽くした。臓の鼓が、の奥で鐘のように鳴り響く。

「お父さんが……? だ、丈夫なの!? 怪は……」 『幸い、骨折はしてないよ。ただね、ちょっと脱もあるし、齢も齢だから、事をとっての病院に数入院して様子を見ることになったの。命に別状はないから、そこはしていいよ』

節子の言葉に、美は張り詰めていた息をわずかに吐きしたが、受話器の向こうの沈黙は依然として苦しかった。節子はかすかに息を吸い、美の急所を正確に射抜くように言った。

『でもね、美ちゃん。お父さんも、もうだよ』

は何も答えられなかった。唇がわななき、喉の奥がカラカラに渇いていく。受話器をに押し当てたまま、固く目を閉じる。

『会わないままでもいいなら、それでもいい。親子のことだからね、あたしがを挟む筋いじゃないのかもしれない。……でもね、で本当に会えなくなってから決めるのは、できないんだよ』

叔母のその静かな警告は、母の葬儀にかなかった美の胸の古傷を、容赦なく抉り抜いた。

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受話器の奥から、微かに「ゴホッ」という、聞き覚えのあるいくぐもった咳払いが漏れ聞こえたような気がした。父が病院のベッドにいるのか、それとも叔母のくにいるのかは分からない。だがその音は、と変わらない、頑固で器用な父の気配そのものだった。

話を切った、美暗くなった居の真んで、受話器を置いた台にをついたまま、しばらくきが取れなかった。

計の秒針が刻む音だけが、やけにきく響く。

脳裏に浮かびがるのは、に見た、りに震える父のきな背だった。の頑固徹な男。誰のも借りず、と畑にきてきたあの父が、畑でをもつれさせて倒れ、入院するほどに老いさらばえてしまったというのか。

――で会えなくなってからじゃ、遅いんだよ。

叔母の言葉が、で何度も反響した。

母のと同じ悔を、私はまた繰り返すつもりなのだろうか。のために、くだらないプライドのために、今度こそ永の別れを迎えてしまうのだろうか。という歳が、父の肉体を確実に蝕み、削り取っているという然たる事実が、美の胸にくのしかかっていた。

を回り、夕器洗いを終えた美は、布巾で丁寧にを拭いてから、居のテレビのに座るの隣へと静かに歩み寄った。

にしたマグカップからる湯気を眺めていたが、美が畳のに正座し、膝ので固く握りしめた拳を震わせているのに気づくと、静かにテレビのリモコンをに取り、音量をゼロにした。

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