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"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第8話

という歳が築いた断絶の壁は、老いと病を得てもなお、微だにしていない。

護師に丁寧に礼を言い、美は指定されたの病へと向かった。

リノリウムのを踏みしめる靴音が、静かな廊に虚しく響く。臓の鼓元で乱打していた。もし病に入って、父に「帰れ!」と鳴られたらどうしよう。たく睨みつけられたら、自分は何と言えばいいのか。

の突き当たり、すりガラスの引き戸に「森田源蔵」の名札を見つけた。

はそのち止まり、荒くなる呼吸をえるために何度も呼吸を繰り返した。え切った指先でコートの裾を握りしめ、を決して音をてないように引き戸を細くけた。

暗く、カーテンが半分だけ引かれた窓際のベッドに、の老が静かに横たわっていた。

点滴のスタンドから細いチューブが伸び、布団からされた腕の甲へと繋がれている。周囲に物々しい医療器はなく、規則正しい微かな寝息だけが聞こえていた。

は息をするのを忘れたまま、ベッドの傍らへとめた。

そして、いシーツのに沈み込むように眠る父の顔を見ろした瞬、美が縫い付けられたように止まった。

――これが、本当にお父さんなの……?

認識するまでに、数秒のが必だった。

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の記憶のにいる森田源蔵は、仕事で鍛えげられた分い胸板と、鳴れば全体が震えるような太い声を持った、恐ろしくで絶対だった。

だが、今目のにいる老は、信じられないほどさく、痩せ衰えていた。

豊かだった黒髪はすっかりくなり、頂部の皮膚が透けて見える。頬はく削げ落ち、浅黒かった肌は病にくすんでいた。掛け布団のされた首は痛々しいほど細く、まるで枯れ枝のようだ。

という歳は、あの恐ろしかった父から、すべての威圧と体力を容赦なく削ぎ落としていたのだ。

りも、激しいしみも湧いてこなかった。ただ、底れない虚無と、の残酷さが津波のように美の胸を押し流していった。

音を忍ばせ、ベッドの脇に置かれていた丸いパイプ子を引き寄せて腰をろした。

そのわずかな属音に反応したのか、父の閉じられていた瞼がピクリといた。

ゆっくりと、そうにかれた父の濁った瞳が、病井を泳ぎ、やがて美の顔のでピタリと静止した。

の空気が、瞬にして凍りついた。

な再会の涙も、の抱擁も、過の過ちを詫びる言葉もない。ただ、苦しい静寂ので、は無言のまま互いの瞳を見つめっていた。

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父の目は徐々に見かれ、値踏みをするように、美のてっぺんから、着古したコート、膝のに置かれた震える指先へと、ゆっくりと線をかしていった。娘がどんな姿で、どんな暮らしをしているのかを確かめるような、厳しくも渇いた差しだった。

わずを縮め、のように罵声を浴びせられるのを覚悟した。

『何しに来た! 誰がおなんぞ呼んだ!』

今にもそう鳴られるのではないかという恐怖で、美のひらにはじっとりとたい汗が滲んだ。それでも、今ここで目を逸らしたら度と向きえないとい、美は逃げずに父の顔を見つめ返した。

い、永にもえる沈黙の末、父のひび割れた唇が微かに震えた。

「……来たか」

吐きされた声は、く、酷くかすれていた。

りも、再会の歓も、責めてるすら混ざっていない。ただ、そこにいるという事実を淡々と確認しただけの、あまりにも文字だった。

は膝ので両く握りしめ、喉の奥から絞りすように答えた。

「……うん」

という途方もない空が、たったそれだけの言葉で結びわされた。これが、絶縁した父と娘が交わした、ぶりの最初の会話だった。

「……来たか」「うん」と交わした、病には再び息苦しい沈黙がりてきた。

父は点滴の針が刺さった細い腕を布団のに戻し、静かに目を閉じてしまった。

はパイプ子のを縮こまらせ、膝のの自分の指先をじっと見つめることしかできない。

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