みかん小説
本棚

"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第11話

は様々なに押し潰されそうになりながら、もできないまま、えとした夜けを迎えた。

翌朝、障子の隙から差し込むで目を覚ました美は、底えのする寒さにわず肩をすくめた。窓のを見ると、庭の枯には真っり、吐く息はく凍りついた。

急いで支度をえ、台所で顔を洗ってお茶をみ、美は病院へく準備を始めた。

は父の退院のだ。

着替えを取りそうと旅バッグの内側ポケットにを突っ込んだ、美の指先が、触に触れた。

「……え?」

引きしてみると、それは見覚えのない純の封筒だった。表には、った字で『美へ』とだけかれている。

封をけると、からみのある万円札の束が滑りしてきた。驚いて数えてみると、ちょうど枚――万円というだった。そして、封筒の裏側には、からのいメッセージが添えられていた。

『自由に使って、返さなくていい。分、しでも楽にしてきてやりなさい』

その温かい言葉を目にした瞬、美の目からポロポロと粒の涙がこぼれ落ちた。

「……馬鹿。こんなにいらないのに……」

は封筒を胸に抱きしめ、畳のにへたり込んだ。

は、美が実のおを気にして何もできなくなることを察し、先回りしてこのおを持たせてくれたのだ。

広告

までの父の孤独に打ちのめされていた美の背を、夫のが力く支えてくれていた。美はこのおいやりとして受け止め、父の今活のために使おうと固くに誓った。

、美が病院へ駆けつけると、父はすでに私な作業着に着替え、ベッドのにちょこんと腰掛けて待っていた。

「おはよう。迎えに来たよ」

が声をかけると、父は何も答えず、元のさな袋を無言で持ちげてがった。退院の続きと支払いを美が済ませ、配したタクシーに乗り込んで実へと向かった。内でも父は窓のをじっと見つめたまま、言も言葉を発しなかった。

に戻り、茶ののこたつに父がどっかりと腰をろしたのを見計らって、美はバッグからの封筒を取りした。

「お父さん。これ……受け取って」

が畳のに封筒を差しすと、父の眉がピクリとがり、鋭いが封筒へと注がれた。

「なんだ、これは」 「さんがね、の修繕とか、お父さんのこれからの活に必なものがあれば使ってくれって、持たせてくれたの。受け取ってほしいの」

は夫の誠を伝えようと懸命に言葉をねた。しかし、父の表は瞬くに険しく張っていった。

「……いらん」

父は封筒に指本触れようとせず、吐き捨てるように即座に拒絶した。

広告

「でも、さんがせっかく用してくれたのよ! お父さんにしでも楽をしてほしいって……」 「いらんと言っとるのが分からんのか!」

父の声が茶のに轟き、古いガラス戸がビシッと震えた。

病みがりとはえない気迫に圧倒されながらも、美の胸のに、澱のように溜まっていた苛ちがマグマのように噴きした。美わず声を荒らげてがった。

「昔からそうじゃない! 何でもかんでも『いらない』って突っぱねて! 帰ってくるな、連絡も寄こすな、全部自分のい通りにしてきたくせに! の好くらい、素直に受け取ったらどうなのよ!」

の激しい言葉を浴びせられても、父は言い返すことはしなかった。

ただ、徹な目で美をじっと見据えていた。その瞳の奥には、昔のような単なるりではなく、何かせないが渦巻いているように見えた。

父は無言のまま、よっこらしょとい腰をげると、を引きずるようにして茶のの奥にある寝へと消えていった。

張り詰めた沈黙の、美は畳のに放置されたい封筒を見つめ、肩で息をしていた。

せっかく夫が面してくれたおを、も見ずに突っ返された悔しさと、退院したばかりの父に鳴ってしまった自己嫌悪が綯い交ぜになり、界が歪んだ。

気持ちを落ち着かせるため、美は台所へ向かい、古い薬缶に井戸を汲んでガスコンロにをつけた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: