みかん小説
本棚

"十八年ぶりの切符「次は三人で来い」" 第12話

青い炎を見つめながら、美は何度もいため息をついた。

薬缶の湯がシュンシュンと音をて始めた頃、背の襖がギィとい音をてていた。

振り返った美は、息を呑んだ。

父が、両で抱え込むようにして、ひどくそうな箱を運んでくるところだった。それは季の入った桐の箱で、父の細い腕はプルプルと刻みに震え、元はおぼつかない。

「ちょっと、お父さん! 無理しないで!」

は慌ててガスのを止め、駆け寄ってを伸ばした。だが、父は「触るな!」と鋭くし、自力でその桐箱を茶のの畳のへとろした。

ドスン、という鈍くい音が響き、箱の隙から埃がふわっとがった。

父は肩で荒い息を吐きながら、再びこたつの傍らへと腰をろした。美はその古びた箱を見つめ、戸惑いながら父の横顔を見た。

「何なのよ、これ……。こんないもの、わざわざ奥から運んできて」

父は美と目をわさず、顎の先で箱をしゃくった。

「……持って帰れ」 「え?」 「おが、持って帰るもんだ」

父はぶっきらぼうにそう言い放つと、めた茶をすすった。美が困惑しながら箱の蓋にをかけようとしたその瞬、父が「まだある」と言って再びがった。

「まだあるって……退院したばかりなんだから、しく座っててよ!」

の制止も聞かず、父は再び奥の部へと向かい、数分、今度は片で引きずるようにして、きな革製のボストンバッグを持ってきた。

広告

それは表面の革がひび割れ、ところどころが剥げ落ちた、酷く代物のバッグだった。父はそのボストンバッグを、桐箱の隣へとドサリと無造作に放りした。

「これもだ。緒に持って帰れ」

は畳のに並べられたつの異様な荷物を見比べ、完全にが混乱していた。ボストンバッグの持ちを握り、し持ちげてみると、ずしりと鉛のような烈なみが腕にかかった。

「こんない荷物、いきなり持って帰れって言われても困るわよ! は何なの? どうして私に渡すのよ!」

が問い詰めても、父は固くを閉ざし、窓のへ顔を向けたままだ。

「……分からないなら、今ここでけてを見るわよ」

が桐箱の蓋に指をかけた瞬、父のが伸び、美首をピシャリとく払いのけた。

「ここで見るな!」

乾いた音が響き、美は驚いてを引っ込めた。父の瞳には、絶対に逆らわせないという烈なが宿っていた。

「なんでよ! 私が持って帰るものなら、今見たって同じじゃない!」 「で見ろと言っとるんだ! 自分のに帰ってから、ゆっくり見ればいい!」

父の剣幕に圧倒され、美は払われた首をさすりながら唇を噛んだ。すると、父は線を落とし、掠れた声でポツリと呟いた。

「……母さんが残したもんも、そこに入っとる」

母が残したもの――その言に、美臓がきくねた。

広告

くなった母が、自分に残したもの。父はそれをずっと奥の部切に保管し、美が帰ってくるこのを待って、渡そうとしていたのだろうか。

、美がこのったは、自分のしだけ詰めたさな鞄つだった。あの軽さと比較して、今目のにあるつの荷物の圧倒さは何なのだろう。

く息を吐き、静かに頷いた。

「……分かったわ。持って帰る」

が答えると、父は微かに肩の力を抜き、フッと息を漏らした。

畳のには、が用してくれた万円の封筒が、依然として取り残されたままだった。美はその封筒を拾いげ、迷った末に自分の旅バッグの内ポケットへとそっと戻した。

は頑として受け取らないくせに、謎のい荷物だけは引に押し付けてくる。

父の真がどこにあるのか、このの美には全く分からなかった。ただ、このつの荷のに、父が決して言葉にできなかった何かが封印されていることだけは、痛いほど肌に伝わってきていた。

で迎えた目の朝、あいの集落は、く煙るたいに包まれていた。

からポタポタと落ちる垂れの音が、朝の静寂を規則正しく刻んでいる。美は自分の旅バッグに加え、父から押し付けられた桐の箱と古いボストンバッグを、なんとかまで運びろした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: