"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第2話
慌ててアクセルを踏み、会社のビルへと続く駐のアプローチへとんだ。
ビルのゲートで止し、いつものように胸ポケットから社員証兼用のパーキングカードを取りす。運転席の窓をけ、リーダーにかざした。
『ピッ』という音とともにバーががるはずだった。
しかし、スピーカーから響いたのは、聞いたこともない鈍い警告音だった。
ブブーッ、ブブーッ。
『エラーコード〇。このカードは現、効化されていません。管理会社にお問いわせください』
「おい、冗談だろ……」
私はカードを裏返し、何度もリーダーに押し当てた。だが、械の赤ランプは無に点滅を繰り返すだけだ。
バックミラーを見ると、続の役員が待スペースのないスロープでち往しているのが見えた。運転が怪訝そうな顔でこちらを見ている。屈辱とや汗が背筋を伝った。私はハザードランプを点滅させながら、ギアをバックに入れ、や汗を流しながら狭いスロープを慎に退し、旦ビルのの肩へを逃がした。
臓が嫌な速さで脈打っていた。
駐だけではない。さっきの通は何だ。
をやそうと、くのコンビニエンスストアのにを止め、ネクタイを緩めて内に入った。考を理するために缶コーヒーを本に取り、レジに向かう。
広告
「百円になります」
銭を持っていなかった私は、財布からメインで使っているクレジットカードを抜き取り、決済端末にタッチした。
ポーン、という気の抜けたエラー音が鳴った。
「お客様、こちらのカード、通信エラーでお取り扱いできませんとますが……」
若い員が無表に私を見る。
「エラー? 限度額なら分に残っているはずだが」
「別のカードか、現でお支払いいただけますか?」
財布をけた。千円札が枚も入っていない。いつも支払いは妻の座から引き落とされる族カードに紐づいたキャッシュレス決済で完結していたため、現を持ち歩く習慣がなかったのだ。
「……すまない、やっぱりやめておく」
百円の缶コーヒーつ買えず、員のややかな線を背に浴びながらをた。
その瞬、ポケットのでスマートフォンが激しく振した。
着信画面には「実(母)」の文字が表示されていた。
嫌な予を覚えながら通話ボタンをスワイプすると、をつんざくような母の鳴がび込んできた。
『直! あんた今どこにいるの?! 会社?! 変なのよ!』
「落ち着いてくれよ、母さん。朝から体何なんだ」
『落ち着いてなんていられるわけないじゃない! さっきデイサービスの相談員さんから話があってね、来週曜からのお父さんの迎え、けなくなりましたって言われたのよ!』
広告
血の気が引くのが分かった。
通目の通が、脳裏にフラッシュバックする。
「……けないって、どういうことだよ。毎週曜と曜は、親父をデイサービスに預けるだろうが」
『からの利用更の類がてないから、枠をの待のに回したって言うのよ! どうして類してないの?! お父さんの徘徊が最ひどくなってるのはってるでしょう?! 曜に施設にってもらえないと、私、目をせなくて倒れちゃうわよ! 真由美さんはどうしたの?! いつも真由美さんが全部続きしてくれてたじゃないの!』
母の切り声が、受話器越しに鼓膜を容赦なく叩く。
「真由美は……今、入院してるんだ」
『入院?! 聞いてないわよそんなの! でも類くらいけるでしょう?! あんた今すぐ真由美さんに連絡して、施設に話させなさい! 私、もう耐えられないわよ!』
「分かった、俺から確認するから。旦切るぞ」
話を無理やり切ると、のひらにじっとりと湿った汗が滲んでいた。
たいのが、肩につ私の頬を撫でていく。
ので、バラバラだったピースが気につの絵を結び始めた。
マンションの械式駐。 自宅の回線。 健保の付加付。 ジムの族会員。 クレジットカード。 実のデイサービス。 息子の学の引き渡しカード。
つの通。
そのすべてが、私の常活、私の体面、私の族のライフラインそのものだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 0 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 0 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第18話
診察室に入れなかった私
妊娠七ヶ月、甲斐甲斐しく尽くす夫の言葉に従い、私は毎回待合室で温かい茶を飲んで待っていた。「異常なし」と笑う夫を疑ったことはない。だが夫が仕事で不在となり、初めて一人で診察室に入ると、医師は冷徹な面持ちで私を見据えた。向けられたパソコンの画面には、私が頑なに治療を拒み、夫が必死に説得したという記録が三回連続で並んでいた。その三回とも、私は一度も診察室に足を踏み入れていない。裡切られた|夫婦|裡の顔|修羅場2.8万字5 0