"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第14話
「会社? よくそんなことが聞けるな」
私はく濁った声で吐き捨て、パイプ子を引き寄せて乱暴に腰をろした。
ビジネスバッグのファスナーをけ、昨の半で集めた、記入途の類の束を取りした。域包括支援センターの相談票、学の職証の申請用、マンション管理事務の駐再抽選エントリーシート。それらをベッドの元のテーブルに叩きつける。
「昨、おの言った通りに駆けずり回ったよ」
私は真由美の目を睨みつけた。
「役員会のプレゼンは部に代役を頼んだ。代半ばのケアマネジャーに説教され、学の教には怪訝な顔をされ、管理事務には払いをらった。おが、どんなに面倒で、どれほど臭い『無名の事』をこなしてきたか……骨の髄まで理解したよ。そこについては、私の認識が甘かったと認める。謝ってもいい」
真由美は何も言わず、テーブルのの類を見つめていた。その瞳には、勝ち誇ったも、堵のもなかった。
「だがな、真由美」
私は鞄の奥から、例の透なクリアファイルを引き抜いた。
枚の。の経過でわずかに黄ばみ、端が折れ曲がったその類を、枚ずつ、真由美の掛け布団のに並べていった。
枚目。健太のジュニアユースサッカークラブ退部届。
広告
枚目。命保険・医療特約の減額および解約通。 枚目。父親の訪問入浴サービス止同。
がシーツを擦る乾いた音が、狭い病に気に響いた。
真由美の線が、その枚の類のに落ちた。
ほんの瞬、彼女の喉仏が微かにしたのを、私は見逃さなかった。揺したのだ。自分が、机の奥くに隠し通してきた「密の決定」をのに晒され、揺しないはずがない。
「……昨の夜、実印と検証を探すために、おの机のキャビネットをけた」
私はを乗りし、真由美の顔を覗き込むようにして言葉を叩きつけた。
「見つけたよ。この枚をな」
「……」
「健太は、勉のために自分の志でサッカーをやめたんじゃなかったのか? なぜ理由の欄に『庭経済の統籌』『送迎の継続困難』といてある? なぜ保護者署名がおの名だけなんだ?」
真由美はをかない。私は息を継ぎ、枚目の類を指先でく弾いた。
「私の保障を勝に半分に削り、自分の医療特約を解約して、毎万千円を浮かせていたそうだな。同期の営業に確認したよ。おが『主の向だ』と嘘をついて実印を押したとな」
「……」
「極めつけは親父のこれだ。訪問入浴を削って、腰のった母さんに呂の介助を丸投げしていたのか? 母さんがノイローゼ寸になっていた原因を、おが裏で作っていたんじゃないか!」
広告
私の声が、りで震えていた。
カーテン越しに、護師がで通り過ぎる気配がしたが、もはや抑えがきかなかった。
「おは昨、劇のヒロインの顔をして言ったよな! 『自分は、見ないふりをされた庭の維持コストを背負わされてきた被害者だ』とな! だが現実はどうだ?! おは被害者なんかじゃない! 私がで必に稼いでいる隙に、息子のを勝に奪い、族の全保障を値切り、老いた親の介護を切り捨てていた! この庭の独裁者は、真由美、おの方じゃないか!」
言い切った私の胸は、荒い呼吸で波打っていた。
これだけの証拠を突きつけられれば、どんなでも青ざめ、弁解を試みるはずだった。
だが、真由美の反応は、私の予を遥かに超えていた。
彼女は震えもしなければ、涙を流すこともしなかった。
ゆっくりとを受話器のようなベッドのリモコンへ伸ばすと、ウィーンというい械音をてて、背もたれをさらに垂直くまで起こした。
掛け布団のに置かれた枚の類を、細い指先で丁寧に枚にまとめ、自分の膝のにねて置いた。
その作は、驚くほど滑らかで、静まり返っていた。
「……全部、見たのね」
真由美の声は、昨よりもく、ドスの利いた響きを帯びていた。
「ああ、見た。見たくもなかったがな」
「そう。
なら、いい会ね」
真由美はまっすぐに私を見つめ返した。その瞳の奥に宿っていたのは、罪悪などでは断じてなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
クラウドが暴いた午前一時の密会
「23時には行く」 40度近い高熱で生後3ヶ月の息子と救急搬送された私を置き去りにし、夫は電話を20回鳴らしても無視し続けた。 眩しすぎる処置室で泣き叫ぶ我が子。深夜2時、現れない夫の代わりに訪れた児童相談所の車へ、私は震える手で息子を託した。 深夜3時40分、酒と女の香水を漂わせて現れた夫は「接待だ、児相なんて大袈裟だ!」と逆上。 だがその時、家族共有クラウドに次々と同期されたのは、21時15分の花火、そして深夜1時50分のホテルで浴衣姿の後輩社員と笑い合う自撮り写真だった――。 私は冷え切った指先で、弁護士へ一本の電話をかけた。夫婦|親子関係1.5万字5 268 -
完結第12話
離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫
3年間無職の夫・浩司から毎月25万円を要求され続けてきた設計士の美保は、出張先のホテルで「振り込まなければ離婚する」と脅されながら、すでに役所で受け取った離婚届受理証明書を静かに見つめていた。 夫は愛人と豪遊し、義母まで共謀して、美保が亡き父から受け継いだ家の名義を書き換えようとしていた。美保は実印を密かに変更し、カードと生活費口座を停止。さらに3年間集めた不正利用、浮気、恐喝、名義変更計画の証拠を弁護士へ渡す。帰宅した彼女に夫は顧客資料を盾に300万円を要求するが、そのファイルは最初からダミーだった。 そして美保がテーブルへ置いた1枚の「離婚届受理証明書」を見た瞬間、自分たちが奪うはずだった家も金も、すでに手の届かないものになっていたと夫と義母は初めて知る――。夫婦|金銭問題1.8万字5 243 -
完結第11話
豪邸を奪う義母と一枚の公正証書
「今日から同居ね。この一番大きな部屋でいいわよ」 庭付き一戸建てを購入した翌朝、引っ越し業者を引き連れた元義母が土足で新居に乗り込んできた。 中卒の元専業主婦と見下され、「不倫女」と理不尽に罵倒されるユイ。だが義母は知らなかった。その家はユイが自力で買い取ったもので、夫とは半年前に離婚済みだったことを。 「慰謝料代わりにこの家を寄越しなさい!」 逆上する義母の前に、ユイは一枚の「公正証書」を突きつける。 ある「不審なメモ」から暴かれた、夫と実の妹によるおぞましい裏切りとは――。 「この名前、誰だか分かりますか?」嫁姑|修羅場1.6万字5 447 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 332 -
完結第10話
逆ギレ夫の家出、怪奇な検針票
「俺がいないと飯も食えないくせに!」 不倫を追及された夫・浩介は逆ギレし、十四年の結婚生活を捨てて家を飛び出した。 途方に暮れるはずの私と二人の子どもたち。だが翌月、ポストに届いた検針票が奇妙な異変を告げていた。 電気代は半額、ガス代は三分の一、月十一万円だった食費は半分以下へ激減。消えた大黒柱の正体は、家族を支える柱ではなく、家計を食い潰すただの浪費装置だったのだ。 二ヶ月後、「反省したなら戻ってやる」と傲慢に玄関を開けた夫。その足元に、私は弁護士と共に用意した書類を滑らせた。 「誰のおかげで暮らせていたのか、答え合わせをしましょうか」介護1.5万字5 669 -
完結第11話
認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった
雪の降る夕方、はる子は息子・健二と嫁・さやかに「ドライブへ行こう」と誘われ、そのまま人里離れた介護ホームへ置き去りにされる。携帯電話まで奪われ、外出も自由にできない中、彼女はようやく「息子夫婦に捨てられた」と悟った。 さらに2人は、はる子に正体不明の薬を飲ませて混乱させ、認知症の診断を取ろうとしていた。 目的は、失敗したカフェ経営で消えた3000万円と、闇金から借りた2000万円を穴埋めするため、成年後見制度を利用して母の通帳と家を奪うことだった。 しかしはる子は密かに認知症のふりを続け、ズボンに隠したペン型録音機で「後見人になれば通帳も家も私たちのもの」という嫁の声を記録する。 何も分からない老人を演じながら、彼女は息子夫婦が自ら罠に入る瞬間を静かに待ち始める――。親不孝|金銭問題|修羅場1.6万字5 333 -
完結第16話
通訳を笑われた家政婦は、会長が20年前に捨てた娘
60億円規模の投資契約を目前に、ドイツ語通訳が事故で欠席。窮地に陥った大和グループで「私がやります」と名乗り出たのは、3年間ほとんど口も利かず働いてきた家政婦・森下美咲だった。 「家政婦の分際で」と会長・神崎大造に嘲笑され、失敗すれば即解雇、成功すれば月給10倍という条件を突きつけられるが、美咲は完璧なドイツ語で会談を進め、120ページの契約書に潜む不利な条項まで見抜いてしまう。さらに5か国語を操る知識と実力に投資家側も驚愕し、美咲をプロジェクトの中核に据えなければ契約しないと要求する。追い詰められた大造の前で、美咲はついに20年間封印してきた本名を告げる。「神崎美咲です。会長の娘です」 彼女こそ、妊娠8か月の冬の夜に大造自身が家から追い出した実の娘だった。20年越しの再会で、美咲が本当に取り戻そうとしていたものが明らかになっていく――。職場逆転|修羅場2.4万字5 7037 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 802