"妻の手術翌朝、七通の解約通知" 第17話
「おが……実へ通っていたのか?」
「毎週曜と曜の午、パートのにっていたわよ。あなたが会社で涼しい顔をしてパソコンを叩いているに、私は認症で暴れるお義父さんに引っかかれながら、オムツを替え、体を洗い、泣きじゃくるお義母さんの背をさすっていたの。誰のおかげで、あなたのご実が崩壊せずに済んでいたとっているのよ!」
病の空気が、力失ったかのように張り詰めていた。
私は、をくことすらできなかった。
喉が完全に干からびていた。
独裁者? 裏切り?
違っていた。すべてが正反対だった。
私が「仕事」という絶対の免罪符を盾にして、庭という臭い現から逃げ回り、面倒な決断をすべて妻に押し付けていただけだったのだ。
おがりないという現実から目を背け、親の老いという恐怖からを塞ぎ、子供の成に伴う摩擦から逃げしながら、先だけで『俺の稼ぎでわせてやっている』と威張り散らしていた。
真由美は、独裁者になりたくてなったのではなかった。
私が放棄した決断の荷を、誰かが背負わなければ庭というが沈んでしまうから、たったで舵を握り、をすすりながら、傷だらけので底の穴を塞ぎ続けていただけだったのだ。
「直さん」
真由美は、膝のの類をサイドテーブルへと滑り込ませた。
広告
その瞳には、もはやりの炎すら残っていなかった。ただ、燃えかすのような、乾いたの虚無だけが広がっていた。
「あなたが本当に欲しかったのは、『相談』じゃないのよ」
彼女の言葉が、私の急所を容赦なく貫いた。
「あなたはね、責任を負いたくなかっただけなの」
「……責任?」
「そうよ。相談されたら、あなたは決めなきゃいけない。健太にサッカーを諦めさせるという残酷な決定を、自分ので言わなきゃいけない。実の親の介護のために、自分のゴルフ代を削るという痛みを、自分で引き受けなきゃいけない。保険を削って、族を危険に晒すというリスクを、自分で背負わなきゃいけない」
真由美の淡々とした分析が、私の魂の輪郭を剥ぎ取っていく。
「あなたは、そのを被るのが嫌だったのよ。だから私に『おの仕事だろ』『適当にうまくやれ』と言って丸投げした。そして、何かの拍子に都が起きれば、決まってこう鳴り散らしたわ」
真由美は、私の調を真似るようにして、くたい声をした。
『どうして、おはこんな簡単なこともく処理できないんだ?』
を槌で殴られたような衝撃だった。
言っていた。
、私は事あるごとに、その台を吐き捨ててきた。
球が切れていれば「なぜ買い置きがないんだ」。 健太の成績ががれば「おがちゃんと見ていないからだ」
広告
。 親父の徘徊の連絡が入れば「おがケアマネとしっかり連携していないからだ」。
「相談すれば、たく突き放される。自分で決めれば、結果が気に入らないに激しく責めてられる」
真由美はさく息を吐いた。
「だったら、最初からあなたに相談なんてしない方がマシじゃない。鳴られる回数が回減るだけ、で勝に決めて処理した方が、私のが擦り切れずに済むもの」
病の計が、カチリ、カチリと音をてていた。
私はパイプ子にく沈み込み、両で顔を覆った。
指の隙から、い息が漏れる。
言い訳の言葉は、何つ残っていなかった。
企業の営業部。論理な考と、確なリスク管理能力を評価されて世してきたはずの男が、自分の庭においては、最も卑劣で、最も無責任な「フリーライダー(タダ乗り)」だったのだ。
私が享受していたの「適な常」は、真由美がで引き受けてくれた無数の痛切な妥協と、息子や親がみ込んでくれた沈黙のに成りっていた、砂の楼閣だった。
「……悪かった」
のひらので、掠れた声がこぼれた。
昨の朝、ので吐き捨てたような先だけの謝罪ではなかった。胃の底からせりがってくる、吐き気のような自己嫌悪を伴った、絞りすような謝罪だった。
「悪かったよ、真由美……。
俺は、何も見ていなかった。おに全部……を被せていたんだな……」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
クラウドが暴いた午前一時の密会
「23時には行く」 40度近い高熱で生後3ヶ月の息子と救急搬送された私を置き去りにし、夫は電話を20回鳴らしても無視し続けた。 眩しすぎる処置室で泣き叫ぶ我が子。深夜2時、現れない夫の代わりに訪れた児童相談所の車へ、私は震える手で息子を託した。 深夜3時40分、酒と女の香水を漂わせて現れた夫は「接待だ、児相なんて大袈裟だ!」と逆上。 だがその時、家族共有クラウドに次々と同期されたのは、21時15分の花火、そして深夜1時50分のホテルで浴衣姿の後輩社員と笑い合う自撮り写真だった――。 私は冷え切った指先で、弁護士へ一本の電話をかけた。夫婦|親子関係1.5万字5 268 -
完結第12話
離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫
3年間無職の夫・浩司から毎月25万円を要求され続けてきた設計士の美保は、出張先のホテルで「振り込まなければ離婚する」と脅されながら、すでに役所で受け取った離婚届受理証明書を静かに見つめていた。 夫は愛人と豪遊し、義母まで共謀して、美保が亡き父から受け継いだ家の名義を書き換えようとしていた。美保は実印を密かに変更し、カードと生活費口座を停止。さらに3年間集めた不正利用、浮気、恐喝、名義変更計画の証拠を弁護士へ渡す。帰宅した彼女に夫は顧客資料を盾に300万円を要求するが、そのファイルは最初からダミーだった。 そして美保がテーブルへ置いた1枚の「離婚届受理証明書」を見た瞬間、自分たちが奪うはずだった家も金も、すでに手の届かないものになっていたと夫と義母は初めて知る――。夫婦|金銭問題1.8万字5 243 -
完結第11話
豪邸を奪う義母と一枚の公正証書
「今日から同居ね。この一番大きな部屋でいいわよ」 庭付き一戸建てを購入した翌朝、引っ越し業者を引き連れた元義母が土足で新居に乗り込んできた。 中卒の元専業主婦と見下され、「不倫女」と理不尽に罵倒されるユイ。だが義母は知らなかった。その家はユイが自力で買い取ったもので、夫とは半年前に離婚済みだったことを。 「慰謝料代わりにこの家を寄越しなさい!」 逆上する義母の前に、ユイは一枚の「公正証書」を突きつける。 ある「不審なメモ」から暴かれた、夫と実の妹によるおぞましい裏切りとは――。 「この名前、誰だか分かりますか?」嫁姑|修羅場1.6万字5 447 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 332 -
完結第10話
逆ギレ夫の家出、怪奇な検針票
「俺がいないと飯も食えないくせに!」 不倫を追及された夫・浩介は逆ギレし、十四年の結婚生活を捨てて家を飛び出した。 途方に暮れるはずの私と二人の子どもたち。だが翌月、ポストに届いた検針票が奇妙な異変を告げていた。 電気代は半額、ガス代は三分の一、月十一万円だった食費は半分以下へ激減。消えた大黒柱の正体は、家族を支える柱ではなく、家計を食い潰すただの浪費装置だったのだ。 二ヶ月後、「反省したなら戻ってやる」と傲慢に玄関を開けた夫。その足元に、私は弁護士と共に用意した書類を滑らせた。 「誰のおかげで暮らせていたのか、答え合わせをしましょうか」介護1.5万字5 669 -
完結第11話
認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった
雪の降る夕方、はる子は息子・健二と嫁・さやかに「ドライブへ行こう」と誘われ、そのまま人里離れた介護ホームへ置き去りにされる。携帯電話まで奪われ、外出も自由にできない中、彼女はようやく「息子夫婦に捨てられた」と悟った。 さらに2人は、はる子に正体不明の薬を飲ませて混乱させ、認知症の診断を取ろうとしていた。 目的は、失敗したカフェ経営で消えた3000万円と、闇金から借りた2000万円を穴埋めするため、成年後見制度を利用して母の通帳と家を奪うことだった。 しかしはる子は密かに認知症のふりを続け、ズボンに隠したペン型録音機で「後見人になれば通帳も家も私たちのもの」という嫁の声を記録する。 何も分からない老人を演じながら、彼女は息子夫婦が自ら罠に入る瞬間を静かに待ち始める――。親不孝|金銭問題|修羅場1.6万字5 333 -
完結第16話
通訳を笑われた家政婦は、会長が20年前に捨てた娘
60億円規模の投資契約を目前に、ドイツ語通訳が事故で欠席。窮地に陥った大和グループで「私がやります」と名乗り出たのは、3年間ほとんど口も利かず働いてきた家政婦・森下美咲だった。 「家政婦の分際で」と会長・神崎大造に嘲笑され、失敗すれば即解雇、成功すれば月給10倍という条件を突きつけられるが、美咲は完璧なドイツ語で会談を進め、120ページの契約書に潜む不利な条項まで見抜いてしまう。さらに5か国語を操る知識と実力に投資家側も驚愕し、美咲をプロジェクトの中核に据えなければ契約しないと要求する。追い詰められた大造の前で、美咲はついに20年間封印してきた本名を告げる。「神崎美咲です。会長の娘です」 彼女こそ、妊娠8か月の冬の夜に大造自身が家から追い出した実の娘だった。20年越しの再会で、美咲が本当に取り戻そうとしていたものが明らかになっていく――。職場逆転|修羅場2.4万字5 7037 -
完結第11話
出世ゴルフの朝、沈黙した妻
「一生話しかけるな。口を開いたら即離婚だ」 そう怒鳴り散らし寝室に鍵をかけた夫。翌朝、出世が懸かった役員ゴルフの起床予定から2時間半が過ぎていた。真琴は夫の言いつけを忠実に守り、一切声を出さず「起きる時間だよー」とLINEを1通だけ送信する。 午前7時15分、泡を吹いてパニックで飛び出していく夫。だが、彼が置き忘れた鍵で書斎を開けた真琴は息を呑む。そこにあったのは、3400万円に及ぶ不正なリベート記録と、真琴の実印を悪用して設立されたペーパーカンパニーの書類だった。 夫の恐るべき企みを知った真琴は、冷たく微笑み受話器を取る。「もしもし、弁護士先生――」夫婦|真実1.7万字5 802