"締め出された新社長" 第5話
誰も責任を取りたくないのだ。 責任を取るがいない所では、は最も全な選択肢――「何もしないこと」を選ぶ。
「朝礼はどうなったんですか」
「止になりました。神部が『社が初から遅刻するはずがない、何かな事故に巻き込まれたんじゃないか』と言いし、社内は今、穏な噂で持ちきりです。『先代と社ので激しい衝突があって、直さんは解任されたんじゃないか』と囁く者までおります」
「私が今すぐって、説します。坂井さん、通用の鍵をけてください。父の図は分かったが、こんなやり方は違っている。現が壊れてしまう!」
私はちがろうとした。 だが、坂井はかなかった。老齢の体を張らせ、頑なに首を横に振った。
「できません」
「坂井さん!」
「私は、先代に拾われて、この会社で飯をわせていただきました。先代のやり方がどれほど乱暴で、どれほど理尽であっても、最には必ず会社を救ってきたのをこの目で見てきました。先代は『直が力づくで入ろうとしたら、警察を呼んでもいい』とまで仰ったのです」
「……警察?」
「ええ。それほどまでに、先代は本気なのです。社、お願いです。どうか、今だけでも、ここで耐えていただけないでしょうか」
を過ぎた古参の幹部が、喫茶の暗いボックス席で、私に向かって々とをげていた。
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その頂部にはいものが混じり、震えていた。 私はち尽くしたまま、拳を握りしめることしかできなかった。
父の狂気。 そして、その狂気に従い続けてきた社員たちの歪んだ忠誠。 柳印刷という会社の病巣は、私がから見ていたよりも遥かにく、骨の髄まで侵されていたのだ。
「……分かりました」
私は絞りすように言って、再び子に腰を落とした。
「今のところは、ここにいます。ですが坂井さん、社内の状況は随、私に報告してください。取り返しのつかない事態になりかけたら、私は父の言いつけを破ってでも突入します」
「ありがとうございます……」
坂井はハンカチで額の汗を拭い、逃げるように喫茶をてった。
残された私は、め切ったコーヒーを喉に流し込んだ。 苦だけが舌のに残り、胸の奥が焼けるようにい。
窓のでは、柳印刷の正面玄関から、営業の若たちが青ざめた顔でびしてくのが見えた。 取引先からの問いわせの話が鳴り止まないのだろう。 では、誰も決められない宙ぶらりんのが、刻刻と会社の信用を削り取っている。
父の言うことは、半分は正しい。 確かに、このまま私が社に入り、「はそのまま使え、責任は私が取る」と言えば、今の危は乗り切れるだろう。
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だがになれば、また別の社員が「社、インキのが」と聞きに来る。 になれば「社、この見積もりの値引き率は」と聞きに来る。 私は父と同じ、の子供を抱えた「巨な父親」になるだけだ。
だが、だからといって、このまま会社が自滅していくのを指をくわえて見ていろというのか? それはリーダーの仕事なのか?
答えのない問いが、のを激しく渦巻いた。
正午を過ぎた。 の械は、度もかなかった。 昼休みに入ったのか、の通用から数のパート女性がてきて、そうにヒソヒソと打ちを交わしながらコンビニへ向かっていく。その線は折、階の社の窓へと向けられていた。
午。 私のスマートフォンの画面が、く震えた。 画面を見ると、営業部の神からのメッセージだった。
神は社内でも番の稼ぎで、父に対しても物怖じせず見を言う男だった。 その神からのメッセージには、緊迫した文面が並んでいた。
『社、どこにいらっしゃるのですか。話にてください。変なことになりました』
私はすぐに通話ボタンを押した。 ワンコールで繋がる。
「神か。私だ」
『社! ご無事なんですか!? 体どこに……』
「私のことはいい。何があった」
受話器の向こうから、荒い息遣いが聞こえてきた。神はどこかの物に隠れて話をかけているようだった。
周囲にの気配はないが、くで械の属音が微かに響いている。
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