"締め出された新社長" 第11話
その、神が突然、血った目でちがった。 元に散らばるダンボール箱を、必にかき集め始める。
「か、隠すんだ……」
「……何?」
奥田が眉をひそめた。
「まだ万部だ! 残りの万部のから、比較マシなものを抜きして……! 表のブロッキングが酷いものだけをに隠して、の方に綺麗なものを並べれば、取次の倉庫での荷受け検査はパスできるかもしれない! 全国のに配本されてしまえば、すぐに全量返品にはならない! そのに、言い訳を考えて……!」
「神、やめろ」
私の徹な声が、凍りついた搬入に響いた。
神のが、ピタリと止まった。 彼は怯えた獣のような目で、私を見げた。
「社……ですが、こうするしか……!」
「良品を偽装して納品することは、ただの過失じゃない。確な詐欺だ」
私は歩にた。 敷の境界線、コンクリートの切れ目のでち止まる。
「それをやれば、柳印刷は度とちがれなくなる。損害賠償で済む話が、刑事事件になる。葉版が、父とこの会社に預けてくれた信頼を、お自ので完全に叩き割る気か」
「じゃあ……じゃあどうするんですか!」
神は涙とで顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
「このまま正直に言えば、契約解除です! 違約でうちは倒産ですよ! 社、あんたはので突っってるだけで、痛くも痒くもないかもしれないが、俺たちには活があるんだ!」
広告
「痛くも痒くもないわけがあるか」
私は胸のポケットから、自らのスマートフォンを取りした。
「速印刷のドライバーさん」
トラックの脇で呆然とタバコを吸っていたドライバーが、ビクッと肩をねさせた。
「は、はい……?」
「この荷物は受け取れません。全量受領拒否です。納品へのサインはいたしません。そのままに積み直してください」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! こっちは運賃も込みで運んできたんだ!」
「運賃と特急加費の万円は、先ほど神の個クレジットカードで決済されたはずです。印刷への債務はすでに成している。だが、品質基準を著しく逸脱した瑕疵(かし)ある商品を柳印刷として受領することは法にできません。この納品伝票の控えと、良品の現物数冊は、証拠として私が預かります」
私は面に落ちていた、表が剥がれた画集を冊拾いげた。 そして、ドライバーに向かってをげた。
「ご労をおかけして申し訳ありませんでした。会社の契約の責任については、ほど私からの社に直接連絡を入れます。あなたにこれ以の責任はありません。お引き取りください」
私の静かだが切の反論を許さない調に、ドライバーは気圧されたように「へ、へい……」と頷き、荷台のアオリを閉め始めた。
広告
トラックが排気ガスを残してっていくのを、社員たちはただ呆然と見送っていた。 残されたのは、アスファルトのに散らばった数冊の無残な良品と、寒に震える神の嗚咽だけだった。
「……終わった」
神がそのに膝をつき、力なく項垂れた。
「葉版に……何て言えばいいんだ……」
誰も答えられなかった。 奥田も、腕を組んだまま唇を噛み締め、線を宙に彷徨わせている。 先代という絶対な傘を奪われた彼らは、吹き荒れる現実の暴のに、ただ凍えることしかできなかった。
そのだった。 背から、静かに忍び寄るような音が聞こえた。
振り返ると、総務経理の坂井が、青い顔をしてスマートフォンを握りしめてっていた。 その画面には通話の表示がっていた。
「……坂井さん?」
坂井は震えるで、通話ボタンをスピーカーに切り替えた。 そして、かすれた声で言った。
「先代の……伊豆の定宿の番号を、いしまして……お話をお繋ぎしました」
が、を打ったように静まり返った。 神が顔をげ、奥田が息を呑んだ。 、この会社を絶対な力で支配してきた「神」のが、スピーカーの向こうに現れたのだ。
坂井が、泣きそうな声で受話器に向かって呼びかけた。
「社……! 坂井です! が……がもう持ちません! に注した万部が全滅しました! 神部も奥田もパニックで、の納品は完全に能です! 葉版から取引を切られます! お願いです、社……今すぐ戻ってきてください! 社の声で、葉版の松井専務にをげていただければ、まだ……!」
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
二千四百万の罠と偽りの解雇
「もう入らなくていい。本日付で解雇だ」 月曜の朝、ゲートで社員証を弾かれた私に、上司は冷酷に告げた。四年間心血を注いだ再生企画の責任者名を横取りされた翌日、手渡されたのは理由なき『解雇通知書』。 理不尽に追放されかけた私だったが、内部監査から突如、私名義で申請された「二千四百八十万円」もの不正稟議の存在を告げられる。 窮地に立たされた私を陥れた者たちは知らなかった。私が社内でただ「会長」と呼ぶ女性の正体と、消されたはずのサーバーに残る決定的な記録を――。 「では、神矢会長を呼んでください」 私が録音を開始したスマホを置いた時、役員フロアの空気が一変する。職場逆転|真相2.1万字5 1150 -
完結第19話
母の葬儀を拒んだ叔父と、消えた教育資金350万円
母を突然失った18歳のまほは、葬儀の方法すら分からず父方の本家へ助けを求める。しかし叔父・正尾は「最後まで自分たちだけでやれ」と突き放し、亡き母まで恩知らずだと罵った。 それから15年、まほは苦学の末にIT企業を立ち上げ、約300人を率いる社長へ成長する。そこへ会社が傾いた正尾が現れ、自分の息子・優と娘・沙耶を「親戚だから」と縁故採用するよう要求。だがまほは「親戚枠も縁故枠もない」と公平な選考を突きつける。 やがて従兄妹が本家の納戸から発見したのは、母が祖父母へ何年も仕送りを続けていた証拠と、父がまほの大学進学のために残した約350万円の信託預金だった。しかも、その金は叔父の会社口座へ流れていた。 15年間母を悪者にしてきた叔父の嘘が、ついに物証によって崩れ始める――。親子関係|金銭問題2.8万字5 270 -
完結第10話
クラウドが暴いた午前一時の密会
「23時には行く」 40度近い高熱で生後3ヶ月の息子と救急搬送された私を置き去りにし、夫は電話を20回鳴らしても無視し続けた。 眩しすぎる処置室で泣き叫ぶ我が子。深夜2時、現れない夫の代わりに訪れた児童相談所の車へ、私は震える手で息子を託した。 深夜3時40分、酒と女の香水を漂わせて現れた夫は「接待だ、児相なんて大袈裟だ!」と逆上。 だがその時、家族共有クラウドに次々と同期されたのは、21時15分の花火、そして深夜1時50分のホテルで浴衣姿の後輩社員と笑い合う自撮り写真だった――。 私は冷え切った指先で、弁護士へ一本の電話をかけた。夫婦|親子関係1.5万字5 268 -
完結第11話
豪邸を奪う義母と一枚の公正証書
「今日から同居ね。この一番大きな部屋でいいわよ」 庭付き一戸建てを購入した翌朝、引っ越し業者を引き連れた元義母が土足で新居に乗り込んできた。 中卒の元専業主婦と見下され、「不倫女」と理不尽に罵倒されるユイ。だが義母は知らなかった。その家はユイが自力で買い取ったもので、夫とは半年前に離婚済みだったことを。 「慰謝料代わりにこの家を寄越しなさい!」 逆上する義母の前に、ユイは一枚の「公正証書」を突きつける。 ある「不審なメモ」から暴かれた、夫と実の妹によるおぞましい裏切りとは――。 「この名前、誰だか分かりますか?」嫁姑|修羅場1.6万字5 447 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第11話
認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった
雪の降る夕方、はる子は息子・健二と嫁・さやかに「ドライブへ行こう」と誘われ、そのまま人里離れた介護ホームへ置き去りにされる。携帯電話まで奪われ、外出も自由にできない中、彼女はようやく「息子夫婦に捨てられた」と悟った。 さらに2人は、はる子に正体不明の薬を飲ませて混乱させ、認知症の診断を取ろうとしていた。 目的は、失敗したカフェ経営で消えた3000万円と、闇金から借りた2000万円を穴埋めするため、成年後見制度を利用して母の通帳と家を奪うことだった。 しかしはる子は密かに認知症のふりを続け、ズボンに隠したペン型録音機で「後見人になれば通帳も家も私たちのもの」という嫁の声を記録する。 何も分からない老人を演じながら、彼女は息子夫婦が自ら罠に入る瞬間を静かに待ち始める――。親不孝|金銭問題|修羅場1.6万字5 333 -
完結第16話
通訳を笑われた家政婦は、会長が20年前に捨てた娘
60億円規模の投資契約を目前に、ドイツ語通訳が事故で欠席。窮地に陥った大和グループで「私がやります」と名乗り出たのは、3年間ほとんど口も利かず働いてきた家政婦・森下美咲だった。 「家政婦の分際で」と会長・神崎大造に嘲笑され、失敗すれば即解雇、成功すれば月給10倍という条件を突きつけられるが、美咲は完璧なドイツ語で会談を進め、120ページの契約書に潜む不利な条項まで見抜いてしまう。さらに5か国語を操る知識と実力に投資家側も驚愕し、美咲をプロジェクトの中核に据えなければ契約しないと要求する。追い詰められた大造の前で、美咲はついに20年間封印してきた本名を告げる。「神崎美咲です。会長の娘です」 彼女こそ、妊娠8か月の冬の夜に大造自身が家から追い出した実の娘だった。20年越しの再会で、美咲が本当に取り戻そうとしていたものが明らかになっていく――。職場逆転|修羅場2.4万字5 7037 -
完結第23話
奪われた手柄と残された受領印
「開発担当の名前、成瀬君に変えておいたから」三ヶ月不眠不休で作った新システムの企画書から、友春の名前は消されていた。机の下で手を重ねる後輩と、冷たく婚約破棄を告げる霞。すべてを奪われ雨の夜に倒れた友春は、なぜか「あの会議の前日」に目を覚ます。 二度と他人の踏み台にはならない――友春は綿密な引き継ぎと受領印だけを残し、即日退職を叩きつけて姿を消した。 迎えた本番発表会、後輩が「見栄え」のために独断で削除した安全装置が、大観衆の前で最悪の暴走を始める。「頼む、戻って直してくれ!」すがる元上司に、友春が突きつけた言葉とは――。職場逆転|真相3.4万字5 215 -
完結第24話
銀2両で売られた盲目の花嫁
不作の年、盲目の竜児は、弟の嫁取り資金を欲しがる継母によって、恐ろしいと噂される山の猟師・陸炎山へ半ば売られるように嫁がされる。 ところが待っていたのは暴力ではなく、彼女を娘のように迎える姑と、「安心して暮らせるまで絶対に触れない」と約束する不器用で優しい夫だった。 薬屋で働いた経験を持つ竜児は、失明していても薬草を見分ける知識を生かし、炎山の狩りと力を合わせて貧しい一家の暮らしを立て直していく。 やがて名医から「治療できる可能性がある」と告げられ、失っていた視力にも希望が差し始める。 しかし陸家が豊かになるほど、金を狙う継母や炎山の過去に関わる女まで現れ、竜児の新しい家族と幸せを脅かし始める――。嫁姑|親子関係3.5万字5 374