"締め出された新社長" 第20話
私は助席から、今朝刷りげたばかりの数枚の資料を束ねたファイルをに取った。
「茶番は、今で終わりにします」
午分。 のオフセットが、ゆっくりと回転速度を落とし、完全に止した。 インキの臭気がち込める荷スペースに、作業着姿の職たち、エプロン姿のパート女性たち、スーツ姿の営業たちが、続々と集まってきた。
彼らは誰として私語を交わさず、列した。 その正面――社の内側と側を隔てる、い透なガラス扉の向こう側に、私がっていた。 にはマイクも拡声器もない。 ただ、たいが吹き抜けるアスファルトのに、パイプ子も置かず、背筋を伸ばしてっていた。
自ドアの鍵は、依然として閉ざされたままだ。 センサーは切られ、私の胸にあるカードキーは、依然として無力なプラスチックの板に過ぎない。 ガラス枚を挟んで、社との社員が、無言で見つめっていた。
ガラス扉の内側、最列にっていた神と奥田が歩にた。 のには、い封筒が握られていた。 表には、震える跡で同じ文字がかれていた。
『退伺』
神が、ガラス越しにをげ、マイク代わりの社内インターホンにを伸ばした。 スピーカーから、痛ましいほど掠れた神の声が、のアスファルトへと流れてきた。
広告
『……社。今回の葉版様の件、すべての責任は私にあります。への独断での注、千百万円の損害賠償、そして来期の売減。私がこの会社に留まることは、社員に対する示しがつきません。本付で、退職させていただきたくじます』
続いて、奥田がインターホンを引き寄せた。 その無骨な顔は、悔しさと恥辱で赤黒く染まっていた。
『俺もだ、社。神を止められず、現のを優先して械を止めた。、先代に甘やかされて、ただの頑固ジジイに成りがってた俺の責任だ。……俺の退職を、葉版への賠償のしにしてください。神と緒に、を引きます』
の幹部が、く、くをげた。 荷に並ぶ社員たちのから、息を呑む音と、さなすすり泣きが漏れた。 営業部と。会社の台骨であるが同にれば、柳印刷は事実の解体へと向かう。誰もがそう確信した瞬だった。
私は、ガラス扉のへと歩歩み寄った。 インターホンの部通話ボタンを、親指でく押し込む。
「顔をげろ、神。奥田さんもだ」
私の乾いた声が、荷のスピーカーからたく響き渡った。 が、恐る恐る顔をげた。
「退伺などという甘えたを、私のにすな」
が、凍りついた。
「辞めて責任を取る? 退職を差ししてチャラにする? ふざけるな。
広告
それは『責任を取る』とは言わない。『逃げる』と言うんだ」
私はを、そしてそのろに並ぶの社員たちを、射抜くように見据えた。
「千百万円の賠償は、会社が支払う。坂井さんと相談し、過で積みててきた利益剰余から全額を取り崩して充当する。法な責任、資繰りの責任、への説責任、そのすべては代表取締役である私が背負う。おたちに円たりとも払わせはしない」
神の目が、きく見かれた。
「だがな」
私の声のトーンが、段とく、鋭利になった。
「その代わり、おたちが失った信用と、削られた割の売は、おたち自の汗とで取り戻せ。神、おが持ってきた規拓リスト、件残らず自分ので回れ。をげて、払いをらって、靴底を減らして契約を取ってこい。奥田さん、あなたが引いた程縮案、秒の妥協も許さず現に叩き込め。インキの滴、の枚まで削り取って、利益率を叩きせ」
私は懐から、今朝届いた通の辞表のコピーを取りし、社員たちの目ので、真っつに引き裂いた。 ビリビリという破断音が、インターホンのスピーカーを通じて々しく響いた。
「辞めることは許さない。ぬ気で働いて、この会社を元の所まで押しげろ。それが、おたちが背負うべき本当の『責任』だ」
神の目から、粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 0 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 0 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 0