"締め出された新社長" 第21話
彼は両で顔を覆い、肩を激しく震わせた。 奥田もまた、インキで汚れた作業着の袖で乱暴に目元を拭い、奥歯をギリギリと鳴らして頷いた。
荷のの空気が、劇に変わっていくのが分かった。 絶望が、覚悟へと塗り替えられていく。 甘えを許さない、だが決して見捨てない「しい社」の輪郭が、彼らの網膜に焼き付けられていた。
私は元のファイルを掲げた。
「全社員に告げる。柳印刷は今、この瞬から、まれ変わる」
私はファイルから枚の類を抜きし、ガラス扉に押し当てた。 そこには、太いゴシック体でこう印字されていた。
『柳印刷 権限と責任の境界マニュアル(第版)』
「これが、私の最初の社命令だ。よく聞け」
私は静かに、だが全員のに届くよう、確に読みげた。
「第条。営業部は今、現の程確認との承認印がない特急案件を、切受託してはならない。いかなる顧客であっても、納期と品質の担保がない注文は、営業部の権限で確に『NO』を突きつけろ。断ったことで失われる売の責任は、社が負う。だが、独断で受託して引き起こした事故の責任は、営業部が負う」
社員たちが息を呑んだ。
「第条。製造部は、品質基準の範囲内における技術判断を、現の責任において完結させろ。用のみがミクロン違おうと、湿度の変化でインキが乗りにくかろうと、現の恵と技術で吸収しろ。
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いちいち社に伺いをてるな。技術の決定権はすべてに委譲する。ただし、判断を放棄して械を止め、損害をした責任は、が負う」
奥田の背筋が、ピンと伸びた。
「第条。社は、現の印刷技術にをさない。々の値引き交渉にをさない。社員の残業や休暇の判断にをさない。……社の仕事はただつだけだ。社員が自らの権限でした決断が、万が破綻したに、そのをかぶって部と戦うこと。そして、会社がき残るための最終な引きを引くことだ」
私は類をろし、全員を見つめた。
「もう、この会社に『全能の父親』はいない。何でも決めてくれて、何でも許してくれる神様は、どこにもいないんだ。おたちひとりが、自分の持ちの『社』になれ。自分ので考え、自分の責任で決めろ。……それができないから、この会社をれ」
シーンと静まり返った荷に、誰の息遣いも聞こえなかった。 だが、の線は、誰として逸らされることなく、ガラス扉の向こうの私へと真っ直ぐに向けられていた。 そこには、恐怖に怯える子供の顔はもうなかった。 荒野に放りされ、自らのでちがったたちの、静かな闘志が宿っていた。
そのだった。
荷の方、搬入のシャッターの脇にある通用ドアが、々しい音をてていた。
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たいとともに、の老がを踏み入れてきた。 のついた防寒着を着込み、には黒い革のセカンドバッグを抱えている。 背は微かに丸まり、く刻まれた眉のシワには、隠しようのない疲労のが滲んでいた。
先代、柳隆だった。
「……社」
誰かがさく呟いた。 社員たちが斉にざわめき、に分かれてを作った。 、この所で絶対な君主として君臨してきた男の登に、瞬だけ、古い代の霊が蘇ったかのような緊張がった。
父は、無言のまま、ゆっくりとした取りでへみた。 その線は、荷の壁に貼られた産予定表を瞥し、に散らばる辞表の破片を捉え、そして、ガラス扉を挟んでつ私へと向けられた。
父は、ガラスの内側にった。 私と父の距は、わずかメートル。 しかしそのには、父が自ら命じて施錠させた、徹なガラスの壁がしていた。
「……直」
父が、掠れた声で言った。 インターホンのマイクを通さない、の老の声だった。 ガラス越しであっても、そのくい響きは分に聞き取れた。
「で、見ていたよ」
父はセカンドバッグのファスナーをけた。 から取りされたのは、季の入った冊の分い預通帳だった。 表には、方の文字が擦れかけた文字で印字されていた。
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