"締め出された新社長" 第22話
「坂井」
父が、震えるで通帳を掲げた。
「私の……個の退職座だ。先週振り込まれたばかりの千万円が、付かずで残っている」
荷が、再び息を呑んだ。
「これを、会社の座に入れろ。葉版への違約千百万円は、ここから全額支払え。残りの百万円は、のボーナスの原資にしろ。……社員に痛みを押し付けるな。傷は、俺ので塞げばいい」
父の言葉に、社員たちのに激しい揺がった。 「退職を……?」 「社が、自分のおで……?」 堵の吐息が、何かのから漏れかけた。 かつてのように、全能の父親が財布をき、子供たちの過ちを帳消しにしてくれる。 あの甘美で、破滅な解決策が、再び目のに差しされたのだ。
「待ってください」
私は、インターホンの通話ボタンを押した。 私の声は、氷のようにたく、容赦なく父の言葉を切り裂いた。
「財布をしまってください、父さん」
父の眉がねがった。
「何だと……?」
「そのおを受け取るわけにはいきません。円たりとも、会社の庫には入れさせない」
「直! おは何をを張っているんだ!」
父が声を荒らげた。かつてのワンマン社の激昂が、瞬だけ蘇る。
「千百万だぞ! 利益剰余を取り崩せば、来期の運転資がどれだけ逼迫するか分かっているのか! のボーナスがなければ、社員の活はどうなる! 親の施しを突っぱねて、何のプライドを守る気だ!」
広告
「プライドの話をしているんじゃない!」
私はガラス扉を、のひらでく叩いた。 ドスン、とい衝撃音が響く。
「あなたが今やろうとしていることは、この会社を腐らせてきた毒を、もう度社員にませることだ!」
父が息を呑んだ。
「あなたがポケットマネーで穴を埋めれば、社員は救われるでしょう。のボーナスもて、みんな『やっぱり社はすごい』と謝するでしょう。……だが、その瞬に、神が流した涙も、奥田さんが痛した恥辱も、全員がわったこのの獄の苦しみも、すべてただの無駄骨になる!」
私は父の目を、真っ向から睨み据えた。
「過ちを犯したが、自らの痛みでその代償を支払わない組織に、自などあり得ない! あなたがやってきたのは、じゃない! 社員を自分のにしておかなければでたまらないという、あなた自の傲で勝な支配欲だ!」
「直……貴様……!」
父の顔が、りと屈辱で真っ赤に染まった。 だが、その拳は震えていた。
「あなたの代は、終わったんです」
私は静かに、だが決定な宣告をした。
「週締めして、会社を荒野に放りせば自する? そんな乱暴な実験でが育つわけがないと、松井専務にされたでしょう。……ええ、あなたのやったことは失敗だ。会社は潰れかけ、板にはが塗られた。
広告
だがね、父さん。その沼ので、神も奥田も、坂井さんも、初めて自分ので考えて、自分のでちがったんだ」
私は父のろにつ社員たちを指さした。
「見てください。彼らの目を。……まだ、あなたの施しを待っている子供に見えますか」
父はハッとしたように振り返った。
そこには、うつむく社員の姿はなかった。 神が歩にた。涙を拭い、毅然とした顔で父を見つめていた。
「社……いえ、社。お気持ちは、涙がるほどありがたいです。ですが……そのおは受け取れません。この傷は、俺たちが営業で稼いで、俺たちので埋めます。どうか……俺たちに、埋めさせてください」
続いて、奥田がにた。インキで染まった太い腕を組み、静かに言った。
「社。俺は、あんたのに隠れて甘えてました。だが、もう終わりです。俺たちのケツは、俺たちで拭きます。社の言う通りです。……あんたの退職でう飯なんて、喉を通りませんよ」
「神……奥田……」
父のから、力が抜けた。 抱えていた通帳が、ハラリとに落ちた。 パサリという乾いた音が、静まり返った荷に響いた。
の社員が、誰として父の元に駆け寄ろうとはしなかった。 彼らは全員、社が引いた「境界線」の向こう側で、自らのでっていた。 父がかけて作りげ、最まで放せなかった「全能の父親」
の座は、いま、社員たち自のによって、永に葬りられたのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 0 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 0 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 0 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 0 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 0