みかん小説
本棚

"母の職場で死んでいた私" 第15話

彼は青森で勤めたを病んで会社を辞めたよ。……私はね、美紀君。野君が退職届をした、彼に座して謝ったんだ。『会社のために犠牲になってくれてすまなかった』とね」

喉の奥が、焼けるようにくなった。

母のついた嘘の裏で、の青が、結婚が、未来が、完全に破壊されていた。 母は「頼んでいない」と言った。 だが、母が沈黙を選び続けたそのが、野さんという青たい国への片切符を押し付け続けていたのだ。

員削減もそうだ」

内さんの告は、止まらなかった。

「佐藤さんという、幼子を抱えた母親が辞めさせられた。彼女は泣き叫んだよ。『どうして私なんですか、津田さんはじゃないですか』とね。私は彼女を叱責した。『津田君が背負っているしみのさを考えなさい』と。……私は、自分ので、幼い子供を育てる母親の活を奪い、津田君を守ったんだ。それがであり、正義だと信じていたからだ」

内さんが、両で顔を覆った。 指の隙から漏れる声は、老いた男の、魂の底からの嗚咽に似ていた。

「私は……何を信じて、何を守ってきたんだ? 私が、この会社で積みげてきた誇りは、体何だったんだ? 私は、の女の卑劣な保のために、罪もない部たちのを切り捨ててきた化だったのか……?!」

広告

静まり返った応接に、内さんの震える声が霊した。

私は、畳に額を擦りつけるようにして平伏した。 涙がボロボロと畳のに落ちて、黒い染みを作っていく。

「申し訳ありません……本当に、申し訳ありませんでした……!」

謝ることしかできなかった。 私の言葉など、内さんが背負わされたの罪悪と裏切りのさに比べれば、何の価値もなかった。

「美紀君」

内さんが、静かに私を呼んだ。

「君は、なぜたんだ?」

私は顔をげられなかった。 額を畳に押し付けたまま、掠れた声で答えた。

「……母と、喧嘩をしたからです。元のけと言う母に反発して、京の専きたくて……『度と帰らない、娘をやめてやる』と鳴って、しました」

「それから、君は度も母親に連絡を取らなかったのか?」

「……最初の、は」

その言葉をにした瞬、私自の奥底に眠っていた、どす黒い汚が胸を衝いてがってきた。

、連絡を絶ちました。話番号も変えて、も送らず……居所も教えませんでした」

内さんは、しばらくの、何も言わなかった。 ただ、い溜息がからってきた。

「君も……母親を試していたのかね」

「……え?」

「『自分がいなくなって、どれだけ苦しむか見てやろう』と。そうっていたんじゃないのかね」

臓を、素で握り潰されたような気がした。

広告

私は顔をげることができなかった。 内さんの言葉は、私がこの、決して直しようとしなかった自分自の醜悪な本質を、正確に撃ち抜いていた。

そうだ。 私は、ただを追いかけて京へったのではなかった。 母を罰したかったのだ。 私の志を無し、自分の望む『普通の幸せ』を押し付けてきた母に、「お違っていた」と分からせるために、私は自ら『者』になりすましていたのだ。

「……の朝

内さんの声が、事務たさを取り戻した。

「津田君を連れて、本社へ来なさい。逃げても無駄だ。退職の支払い保留、および過の慶弔詐取に関する調査委員会をげる。……彼女が法な責任を問われるかどうかは、の彼女の態度次第だ」

「……はい」

「帰りなさい。君の顔を見ていると、自分が野君や佐藤さんにしてきた仕打ちがされて……吐き気がする」

私は、げたまま、うようにして内邸の玄関をた。

たいが、涙で濡れた私の顔を容赦なく叩いた。 空からは、予報通り、みぞれ混じりのたいがぽつぽつとり始めていた。

へ戻る取りは、鉛のようにかった。

内さんの言葉が、で鐘のように乱打されていた。 『君も母親を試していたのかね』

私は、実の玄関をけた。 母の姿は、居にはなかった。

台所のシンクには、今朝私がした噌汁の椀が、え切って油の浮いたまま放置されていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: