みかん小説
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"母の職場で死んでいた私" 第19話

壁には潮で錆びついた会社のロゴマークが掲げられ、敷内の駐には、朝の始業準備を終えた配送トラックが何台もまっていた。

朝の分。 社してくる社員たちの群れが、正をくぐっていく。 作業着を着たの従業員、事務職の女性たち、営業の若い男性たち。 その誰もが、ち止まっている私たちに気づいた瞬、ピタリと会話を止めた。

「……あ」 「津田さん……?」

ひそひそとした囁き声が、たい空気のを波紋のように広がっていく。 の夜、ホテルの宴会で起きた代未聞の騒は、すでに社内の隅々までれ渡っていた。 の制を着た配の女性が、母の姿を見てギョッとしたようにずさりし、隣の同僚の袖を引いた。 誰も寄ってこない。 誰も「おはようございます」と声をかけてこない。

まで、このをくぐり続けた母に向けられていたはずの、労いと敬差しは、跡形もなく消え失せていた。 そこにあるのは、ただ々しい好奇の線と、悪いものを見るような拒絶の沈黙だけだった。

母は震える両をコートのポケットに突っ込み、度だけを止めかけた。 膝が笑っているのが、ろからでも分かった。

「お母さん」

私は母の細い肩に、ろからそっとを添えた。

丈夫。

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を見て」

母はさく息を呑み、噛み締めた唇から微かに血を滲ませながら、再び歩を踏みした。

本社ビルの階にある第会議は、苦しい静寂に支配されていた。

央に置かれたい会議テーブルの座には、の男性が並んで座っていた。 央に座るのは、の夜にあの非常階段へ踏み込んできた現総務部の野さん。 その隣には、事課の乾さんという代の神経質そうな男性。 そして隣には、昨私が自宅を訪ねた、相談役の内正さんが座っていた。

内さんはグレーのつ揃いのスーツを完璧に着こなし、腕を組んで、微だにせず扉を見据えていた。 その隣の壁際のパイプ子には、労働組の腕章を巻いた女性の代表者が、い表で控えている。

ガラリ、と引き戸をけて私たちが部に入った瞬線が斉に母へと突き刺さった。

「失礼いたします……」

母の声は、蚊の鳴くように細かった。 母は部央、用された脚のパイプ子のつと、く、直角にげた。 私もそれに倣い、母の隣で礼した。

「座りなさい、津田さん」

が、乾いた声で言った。 その声には、揺はすでになく、徹な管理職としての事務な響きだけがあった。

母は座らなかった。

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膝を折るようにして、会議たいリノリウムのに、直接両膝をついた。

「津田さん?!」

事課の乾さんが驚いたように声をげたが、母は構わずに両につけ、額を板に擦りつけた。

「申し訳……ございませんでした……!」

母の喉の奥から、絞りすような絶叫が漏れた。

「私は……、会社を、内部を、同僚の皆さんを、騙し続けてまいりました。娘の美紀は……んでなどおりませんでした。すべては……私の見栄と、さと、保がついた嘘でございます……!」

母のが、刻みに痙攣するようにで震えていた。 に擦りつけられた額の皮膚が赤く鬱血していくのが見えた。

会議に、息苦しい沈黙が落ちた。

元のバインダーの端を指先でトントンと叩き、内さんは組んだ腕を解こうともせず、ただえ切った差しでの母を見ろしていた。

「津田君」

内さんが、く、しかし部の隅々まで染み渡るような声でいた。

げなさい。……座で済む段階は、にとうに過ぎている」

その言に、母の肩がびくりとねた。 母は涙とでぐしゃぐしゃになった顔を、恐る恐るげた。

の夜、君が逃げした、総務と事で君の過の労務記録をすべて洗い直した」

類をめくりながら、事実だけを淡々と読みげ始めた。

。君の申告による、女・美紀さんのに伴う特別慶弔および互助会からの特別慰問、計万円の支

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