"私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た" 第2話
アラフォーを目にして学代の借を返済し続けていることに、竜太は常々引け目をじているようだった。
「これで肩の荷をろしてあげられる」
麻は帳の余を指先でなぞった。自分が働いた退職であっても、このからていく借であることに変わりはない。入が確認できたら、恩着せがましくなく「括で払っておいたから、来からの引き落としはもうないよ」とだけ伝えるつもりだった。
午8過ぎ、鍵がガチャリと回り、竜太が帰宅した。ネクタイを緩めながらリビングに入ってきた夫は、テーブルのの束を瞥し、蔵庫から缶ビールを取りした。
「お疲れ様。今で本当に終わりか?」
「ええ、無事に引き継ぎを終えてきたわ。これ、みんなからいただいたの」
「ふーん。まあ、これからは俺がしっかり稼いでわせてやるから、おはでしくしてろよ」
プルタブを引き、喉を鳴らしてビールを煽る竜太の言葉に、麻の胸の奥で微かな違がざらりと擦れった。「わせてやる」。その表現には、共に計を支えってきた対等な伴侶への敬ではなく、庇護に置いた者を見ろすような、鈍い響きが含まれていた。
その、ローテーブルに置かれた竜太のスマートフォンが振した。画面に表示されたのは『母さん』の文字だった。
広告
竜太は画面を麻に向け、顎で「ろ」と図した。
「もしもし、お母さん。麻です」
『あら、麻さん? 今で退職だったんですってね。竜太から聞いたわよ』
話から響いてきたのは、とバスを乗り継いで35分ほどの公団宅にで暮らす義母・久美子、64歳の声だった。5に夫をくして以来、息子である竜太への執着は々濃くなっていた。
『良かったじゃないの。女のはね、余計な仕事なんかしないでにいるのが番楽なのよ。で必に稼いでくる夫がいるんだから。これからはの嫁として、のことをしっかりやってちょうだいね』
「……はい、ありがとうございます。体調を見ながら努めます」
麻はく相槌を打った。久美子のにする「のため」「のこと」という言葉を聞くたび、麻はいつも輪郭のぼやけた居の悪さをじていた。
結婚してからの7、活費の管理はすべて麻の名義座に集約されていた。竜太が毎20万円をその座に振り込み、賃、費、通信費、各種保険料を引き落とし、分や費、用品代は麻が自らの与から補填する。共働き夫婦にありがちな折半の形式だったが、名義を麻に本化したのには事務な理由があった。麻の方が経理職ゆえに平の窓へきやすく、各種の続きを迅速に処理できたからである。
広告
竜太が引き落としの内容をいつでも確認できるよう、麻はネットバンキングのログインID、ログインパスワード、暗証番号をすべてメモにいて共していた。さらに、の振込に必な認証用確認番号は、自宅の固定話に話をかけると自音声が読みげる設定のまま、7度も見直していなかった。
「なぁ、退職っていくらるんだ?」
通話を終えた竜太が、缶ビールを片にソファからを乗りしてきた。麻は無識のうちに、テーブルの帳を両で覆い隠していた。
「410に入予定だけど、総務の計算通りなら420万円くらいになるとうわ」
「よんひゃく、にじゅうまん……」
竜太の目が丸くなり、喉仏がごくりといた。
「そんなにるのか。企業の総職でもないのに、結構なだな」
「規定で勤続数ごとの支掛け率が決まっているから。13、度も休まずに積みててきた分よ」
「へぇ……なぁ、そういうまとまったって、どこに置いとく気なんだ? そのまま普通預に入れっぱなしにしておくのか?」
「私の与振込座にそのまま入るから、産費用やこれからの活費として私が管理するわ」
麻が淡々と告げると、竜太はそれ以何も言わず、線をテレビの黒い画面へと逸らした。
その夜、夜1を回った頃に麻はふと目を覚ました。
寝のドアの隙から、リビングのかりが細く漏れていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 478 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 615 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 202 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3040 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 3081 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 358 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397