"消された母親席" 第2話
隣で同じものを見ていた剛が、りに声を震わせた。
「どういうことだ?代は郎の母親だぞ。名がないなどということがあってたまるか」
剛の声がロビーに響き渡った瞬、背から澄んだ声が聞こえた。
鈴を転がすような、しかし氷のようにたい声だった。
「あら、お義母さん、来ちゃったんですね」
代がぎこちないきで振り返ると、そこにの女性がっていた。
純のウェディングドレスにを包んだ嫁、千だった。
使のように美しいその顔には、悪魔のような酷な笑みが浮かんでいる。
代は、かろうじて声を絞りし、千を見つめた。
「千さん、これは……この席次表は、体どういうことなの?」
自分で驚くほど、代の声はか細く震えていた。
千は、まるで取るにらない世話でもするかのように、あっさりと答えた。
「ああ、席次表のことですか?その通りですよ」
彼女の残酷なまでにった唇が、のように歪んだ。
千は、代の目を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「お義母さんの席はありませんので、ご祝儀だけ置いて、隅の方で体育座りでもしていてくだされば分です」
体育座り。
その言葉が鋭い刃となって代の鼓膜を突き破り、脳髄を切り裂いた。
、こののためにきてきた。
その全てが、今この言で完全に否定され、踏みにじられたのだ。
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凍りつく代のを、隣につ夫が骨がきしむほどく握りしめた。
剛は静かにりの炎を燃やしながら、千を睨みつけた。
剛は、鳴のようない声で妻に告げた。
「代、帰るぞ」
その言は、これから始まるい戦いの始まりを告げる狼煙だったのか。
それとも、全てを諦めるための終わりの図だったのか。
代にはもう、何も分からなかった。
剛の放った言葉は、現実を失っていた代の識を激しく揺さぶった。
なぜ帰らなければならないのか。
いや、それよりもなぜ自分は今、こんな所にたされ、こんな仕打ちを受けなければならないのか。
代の脳裏に、これまでのが馬灯のように駆け巡り始めた。
それは、息子である優太のために捧げ尽くした、の献の記憶そのものだった。
代は護師だった。
それもただの護師ではない。
夜勤も休勤も厭わず、常に患者の痛みに寄り添い、その命と向きってきた。
は彼女の戦闘であり、誇りそのものだった。
若い頃は、同期たちが次々と結婚や産をに現をれていった。
しかし、代だけは歯をいしばって働き続けた。
全ては、腕ので眠るさな優太の未来のためだった。
この子にだけは、何自由ないを歩ませてやりたい。
そので、自分のも若さも、全てを仕事と育児に注ぎ込んできたのだ。
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学の入学式のの記憶が蘇る。
代は夜勤けでほとんど眠れていないまま、学へと駆けつけた。
しきめの制にを包んだ優太が、そうな顔でこちらを見ている。
代は、鉛のようにい体に鞭を打ち、満面の笑みでを振った。
「丈夫よ。ママはここにいるから」
その笑顔の裏で、彼女がどれほどの疲労と戦っていたかをる者はいない。
学にみ、優太が野球部に入ったのこともいす。
代は週末の度に、だらけになったユニフォームを洗った。
こびりついた黒の汚れは、普通の洗濯ではなかなか落ちない。
代は専用の鹸を使い、枚枚丁寧に洗いした。
そのユニフォームが息子の努力の証のようにえて、議と苦にはならなかった。
そして、学受験の期がやってきた。
教育費は像を絶する額となって、計にくのしかかった。
私学の理系学部にみたいという優太のがあった。
おがないという理由で、そのを諦めさせることだけはしたくなかった。
代は護師に願いて、さらにくの夜勤シフトに入った。
仮眠のいベッドでカップラーメンをすすりながら、教科を広げる優太の姿をい浮かべた。
そうして自分を奮いたせ、捻した学費は総額で百万円を超えていた。
社会になり、優太が千との結婚を報告してきたのびは、今でも鮮にいせる。
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