"消された母親席" 第14話
「私はです。私には私の尊厳があります」
ようやく代は、自分の本当の気持ちに正直になることができた。
必に働いて息子に全てを捧げてきた。
それを踏みにじられて黙っている必など、どこにもないのだ。
剛は、力く言葉を返した。
「それでいい。これはおの尊厳を守るための、正義の戦いだ。そして俺も、おと共に戦う」
代は、く謝のを表した。
「ありがとう、あなた」
その瞬、代は完全にを決めた。
もう度と、あの理尽な息子夫婦に屈することはないと。
剛は、を見据えて言った。
「よし。決まったな」
剛は、再びのエンジンをかけた。
「まずはあの式に戻るぞ。々が渡したご祝儀百万円を、円残らず返してもらう」
剛の目は獲物を狙う鷹のように鋭く、方のを見据えていた。
「そして、結婚資百万円の返還請求をしている事実を、支配を通じてあの馬鹿なにも伝えてやる」
剛は、酷なまでの計算をにした。
「百万円のご祝儀がなければ、式への支払いがするはずだ。それに加えて、百万円の返還請求。あのにそんなを支払う余裕などあるはずがない」
剛の言葉は、確信に満ちていた。
「そうなれば結婚式は必然に止だ」
このが、これからどのような結果を招くことになるのか。
広告
その頃、息子夫婦は何もらずに、華やかな披宴の始まりを今か今かと待ちわびていた。
自分たちの元で、獄の釜の蓋がゆっくりと、しかし確実にかれつつあることなど、る由もなかったのであった。
ホテルのエントランスにを滑り込ませた、代のは先ほどとは比べ物にならないほど静かで、そして決然としていた。
隣に座る夫の剛の横顔にも、迷いは切ない。
は戦へと赴く戦士のような厳しい覚悟を、そのにまとっていた。
ロビーにを踏み入れると、先ほどを追い返した式の支配が驚いた顔で駆け寄ってきた。
支配は、堵したような声で話しかけてきた。
「あ、沢様。お戻りになられたのですね。よろしければ、郎婦様ともう度お話を……」
剛は、支配の言葉をたく遮った。
「いや、その必はない」
剛は、無を言わさぬ迫力で宣告した。
「支配殿にお話があります」
その迫力に、支配はごくりと喉を鳴らした。
は、目を避けるようにロビーの隅にあるさな応接スペースへと所を移した。
剛は、単刀直入に件を切りした。
「単刀直入に申しげます。先こちらに事にお渡ししておりました、々からのご祝儀百万円ですが、今すぐ全額返却していただきたい」
剛の言葉に、支配は目を丸くした。
広告
「に、百万円をご返却ですか?しかし、もうもなく披宴が始まりますし、お料理の準備も全てっておりますが……」
剛は、きっぱりと言い放った。
「構いません」
剛は、りを押し殺した声で理由を語り始めた。
「私の妻は、これから族となるはずだったあの夫婦に、として扱われませんでした。母親としての尊厳を、ゲストので完膚なきまでに踏みにじられたのです」
剛は、支配の目を真っ直ぐに見据えた。
「ならばこちらも、彼らの結婚式に協力する義理は切ありません」
その言葉と、隣で毅然と座る代の姿から、ただごとではないと察したのだろう。
支配は蒼な顔で尋ねた。
「として扱われなかったと申しますと……具体には?」
理由をお聞きになりたいのならと、それまで黙っていた代が初めてをいた。
その声は、氷のようにたく澄んでいた。
代は、静かに支配に告げた。
「郎婦に直接お尋ねください。『郎の母親に、体育座りで分と言ったそうですね』と。その言葉が、私たちのした答えです」
体育座り。
支配は絶句した。
郎の実の母親に対して、そんな常軌を逸した暴言を吐くがいるとは、信じられなかったのだろう。
その顔には、息子夫婦への確な軽蔑と、代への同のが浮かんでいた。
支配は、くをげた。
「……分かりました。百万円、直ちに返却の続きをいたします。々お待ちください」
数分、慌てた様子で戻ってきた支配によって、返の続きは滞りなくわれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 84 -
完結第18話
顔合わせのすっぽかしと五通の裏切り
精密機械加工会社の令嬢・紗栄は、誠実に見えた恋人・弘樹と婚約を結ぶ。しかし両家顔合わせの直前から弘樹はモラハラを連発し横柄な態度へと急変。迎えた顔合わせの当日、高級料亭へ向かわず自室に留まる紗栄のもとへ、弘樹から「遅刻するな、調子に乗るな!」と激しい怒声が届く。 その瞬間、横にいた紗栄の父が電話を奪い取り一喝。「とぼけても無駄だ。お前の身辺調査は済んでいる」。 机の上に叩きつけられた興信所の分厚い茶封筒と、弘樹が抱える「5人の愛人」の証拠写真。怒り狂った弘樹が両親を連れて実家へ殴り込んできた時、彼らがひた隠しにしてきた信じがたい搾取の手口が暴かれ――。嫁姑|裡の顔2.7万字5 1470 -
完結第31話
「会計は嫁」の還暦祝いと18万6740円
「会計はいつものように嫁ね」――舅の還暦祝いに集まった親族18人。1人8800円の懐石に祝い鯛まで並ぶ中、夫・浩司も「エミ、よろしく」と当然のように私へ支払いを押しつけた。だが私は店員に、自分の9460円分だけ別会計にしてほしいと伝える。2時間後、幹事の浩司へ差し出された残り17人分の伝票は18万6740円。5年前、善意で一度4万円を払ったことから、7万円、10万円超と立て替えは膨らみ、返すという約束も消え、私の財布は田中家の“共有財産”にされていた。しかも浩司は親族に「エミが払ってくれる」と勝手に約束し、自分だけ気前のいい長男を演じていたのだ。経理主任の私はもう黙って穴埋めしない。自分の分だけ払い、残りは予約名義人へ――そして帰宅後、5年分のカード明細を前に、夫へ自分の嘘と向き合うよう突きつける。だが金の境界線を引いた途端、今度は義母が“親族のため”という新たな請求を持ち込み始める――。嫁姑4.6万字5 362 -
完結第19話
結婚翌朝の平手打ちと専務剥奪
「嫁のくせに初日から遅刻か」――結婚翌朝、老舗料亭グループ専務の夫・高志は、親族の前で私・美咲の頬を平手打ちした。私は管理栄養士として、持病を抱える義父・正一郎のために朝食を作り直し、配膳が5分遅れただけだった。しかも義母・かよが“嫁の腕試し”に使わせた古い調味料は、義父の薬と危険な組み合わせになるもの。誰も信じようとしない中、私は義父の御膳をひっくり返し、「命を粗末にするよりはマシです」と言い切る。すると駆け込んできた料理長・佐木が私を“白川先生”と呼び、封印されていた試作品の危険性を証言。父で食品衛生の専門家・白川敬吾からも緊急の電話が入り、食卓の空気は一変する。それでも母をかばい、私を嘘つき扱いする高志。だが義父が「彼女は私の命を救った」と頭を下げた瞬間、黒崎家が守ってきた序列は崩れ始める――。嫁姑2.8万字5 304 -
完結第25話
父の形見をゴミと笑った夫と五十億円の引導
父の葬儀を終えて帰宅した私・水希を待っていたのは、夫・高志から突きつけられた離婚届だった。「底辺の血筋」「寄生虫」と亡き父まで侮辱した彼は、次期社長の座を手に入れるため、社長令嬢リナとの再婚を宣言し、10年間尽くした私を無一文同然で家から追い出す。絶望の中、私に残されたのは、父が最期に託した錆びたブリキ箱だけ。その届け先を頼りに東北へ向かうと、辿り着いたのは巨大企業・暁グループの総本部だった。しかも父の名を告げた瞬間、黒服の社員たちが一斉に頭を下げる。父は本当に貧しい町工場の職人だったのか――。やがて私は、父が残した“力”と、高志の会社を巡る不穏な事実を知る。もう泣いて耐えるだけの妻ではない。自分を捨てた男が次期社長の座を確信して総本部へ乗り込む日、私は静かに反撃の舞台を整え始める。嫁姑3.8万字5 243 -
完結第12話
午前五時の朝餉
母・加奈子を理不尽に追い出して七日目の朝。二重ロックで施錠されたはずの台所で、炊飯器のランプが黄色く灯っていた。「保温:28分」。蓋を開けると、湯気を立てる筍ご飯と、包丁立てから消えた一番重い三徳包丁。電源を抜いても、暗証番号を変えても、毎朝午前五時に届き続ける温かい米。やがて米の底から現れた“ある金属片”を境に、父と祖母の顔から血の気が引いていく。母はどこから入り、この家で何を見つめているのか。因果応報|嫁姑|真実|修羅場1.8万字5 869 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 21