"五人の元彼と三万一千円" 第5話
のの夜。
窓のを真っ赤に染めた炎のさと、サイレンの音。
そして、焼けされた私のアパートのにち尽くしていた、の男たちの顔が、馬灯のように脳裏をよぎっていった。
「万千百円だったの」
私のから、乾いた数字がこぼれ落ちた。
「あのとき……私を助けるために、あのたちがしってくれたおの総額が、円も違わず、万千百円だったのよ」
控えの空気は、まるでえ切ったのに沈んだようにかった。
壁掛けの計の針が、チク、タク、とい音をててんでいる。
分。親族紹介まで、あと分を切っていた。
俊平は私のにっていた。そのった顔ちには、りというよりも、底のれない困惑と、拒絶への警戒が張り付いていた。
「……話してくれ」
俊平が言った。声はく、乾いていた。
「万千百円。なぜその額が、君の元彼たちと繋がるんだ」
私はドレッサーの縁にをつき、細く息を吐きした。ビスチェの締め付けで浅くなった呼吸の隙から、ずっとの奥底に鍵をかけて沈めていた、あのの景が蘇ってくる。
「の、学のだったの」
私は鏡に映る、蒼な自分の顔を見つめながら話し始めた。
「当、私は王子にある築い造アパートの階にんでいた。
広告
賃は万千円。私の実……俊平さんにもし話したことがあるけれど、父が事業に失敗して、私がのときに自己破産したの。借取りが毎晩のように話をかけてきて、母はノイローゼになって、最は夜逃げ同然で両親が婚した」
俊平の眉が微かにいた。
「だから私は、円たりとも実に頼れなかった。奨学を借りて、学の講義が終われば毎晩居酒とコンビニを掛け持ちしてバイトして、ギリギリで活費と学費を賄っていたの。『誰にも迷惑をかけない』『誰にも借りは作らない』……それだけが、私の誇りであり、きるための唯の支えだった」
あの頃の自分をいすと、今でも喉の奥がヒリヒリとする。
すり減ったスニーカー、でもをつけずに毛布を被って震えていた部、百円ショップのうどんばかりをべていた々。
「の、ものすごく蒸し暑い夜だった。夜過ぎ、サイレンの音と『事だ!』という叫び声で目が覚めたの。隣の部のが、揚げ物の油をにかけたまま寝入ってしまって……私が気づいたときには、いベニヤの壁がすでに真っ赤に燃えがっていた」
あの夜の。黒煙の苦さ。
ビニールが焼けるを突く異臭。
「私は着の着のまま、携帯話だけを握りしめて階段を駆けりた。アパートは全焼したわ。
広告
私の部も、教科も、も、わずかな現も、全部燃えてになった。災保険……学向けの共済保険に入っていたつもりだったのに、更の続きが私の際でヶに切れていたの」
「……保険が、なかったのか」
俊平が息を呑む音が聞こえた。
「ええ。失責任法があるから、隣からの損害賠償は期待できない。それどころか、さんからは残置物の撤費用の分担を求められ、しい部を借りる敷も礼もない。財布のの銭しか持っていない歳の女が、夜のに放りされたのよ」
翌、学の講義の隅で、私は途方に暮れて震えていた。
着ていくもなく、サークルの部に置いてあった予備のジャージを着て、誰にも事を話せず、ただ隅の席で膝を抱えていた。
そこにやってきたのが、当同じイベント運営サークルに所属していた、あのだった。
「最初に気づいてくれたのは、学先輩の佐々さんだった。私のただならぬ様子を見て、問い詰めて、全部状させたの。佐々さんは驚いて、すぐに同じサークルのさん、藤田さん、松本さん、そして輩の林君を集めた」
「そのが……」
「そのの夕方、サークルの部の暗い蛍灯ので、佐々さんが机のに茶封筒を置いたの。『とりあえず、これでしいアパートの初期費用と、当面のや教科を買え』って」
封筒のには、千円札と千円札、それに銭が何枚も混ざっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 0 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 32 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 50 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 37 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 790 -
完結第25話
義母の合鍵が入らない
結婚五年目、情緒不安定を理由に義母に家の合鍵を預けさせられた。夫は母を庇い、私に我慢を重ねるよう笑って求めた。義母の無断侵入は続き、私の大切な机まで雨のベランダへ放り出されたが、私は一度も怒鳴らなかった。一ヶ月後、いつものように合鍵で入ろうとした義母の前に現れたのは、鍵穴すら存在しない最新の電子錠だった。激怒して電話をかけてきた義母に対し、今まで母に逆らったことのなかった夫が「僕が鍵を変えた」と告げた。嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場3.8万字5 121 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 99