みかん小説
本棚

"五人の元彼と三万一千円" 第11話

「僕たちは今を共にする誓いをてるんだよ。君の過の傷も、君が隠してきた秘密も、すべて受け止める覚悟でここにっている。……なのに、これは何なんだ、千里」

俊平は帳のページを指先で弾いた。が擦れう微かな音が、まるで私に対する断罪の鐘のように奥に響く。

、僕がインフルエンザで寝込んだときのこと、覚えているかい?」

「……ええ」

「君は仕事を休んで、僕の部に駆けつけてくれた。汗をかいた僕のパジャマを着替えさせて、ポカリスエットとりんごを買ってきて、おかゆを炊いてくれた。僕は嬉しかったよ。このはこんなに僕を気遣ってくれるのかと、からした」

俊平の線が、帳の端のに落とされた。

「でも、ここには何ていてある? 『 俊平さん病。材・料費1,420円。翌週、俊平さんより回復祝いとしてディナー(イタリアン、総額8,600円)の申しあり。貸借均衡のため辞退。ランチ(1,100円のパスタ)に誘導し、差額320円分をコーヒー代として支払わせ受領。相殺完』……」

俊平は帳から目をげ、私の顔をじっと見つめた。その瞳には、い傷つきと、やりのない虚しさが溢れていた。

「相殺完? 僕が君に伝えたかった『ありがとう』は、320円のコーヒーで相殺される程度の取引だったのか?」

「違うの、そうじゃないの……!」

「じゃあ、どれが本当なんだ!」

広告

俊平が帳をドレッサーのに放りした。バサリと鈍い音がして、帳はいたまま、散らばった通のなった。

「結婚指輪のときもそうだ。僕がし背伸びをして、君の好きなブランドの指輪を贈りたいと言ったとき、君は頑なに拒んだ。『すぎるものは落ち着かない』『私のの丈にわない』と言って、結局、番シンプルな、僕たちの料の範囲でぴったり折半できる価なものを選ばせた。僕はあのとき、君が謙虚で堅実なだからだとっていたよ。でも違ったんだな」

俊平は自嘲するように元を歪めた。

「君はただ、僕からのプレゼントという名の『負債』を背負うのが怖かっただけだ。僕に指輪を買ってもらったら、その分、君は僕に何かを差しさなければならないとい込んで、それが耐えられなかったんだ」

「……」

居の敷も、具の代も、結婚式のオプションつに至るまで、君は必ず『これは私が全額す』か『円単位で折半』にこだわった。僕がしでもめにそうとすると、君は骨に嫌になった。……千里、君にとって僕は誰なんだ? 共に支えってきていく夫なのか? それとも、いつ理尽な利息を請求してくるか分からない、信用できないビジネスの取引相なのか?」

臓を素で握りつぶされたような激痛がった。

広告

息ができない。コルセットの締め付けのせいではなかった。俊平の放つ言が、私のの欺瞞を、皮膚を枚ずつ剥ぎ取るように暴きしていたからだ。

「違う……そんなつもりじゃなかったの……」

私は両で顔を覆い、ドレッサーのに崩れ落ちた。

のサテンドレスの裾が、の絨毯のきく広がった。階の窓から差し込むが、私のドレスのレースをく輝かせている。その純潔の象徴のようなさが、今の私には耐え難いほど汚らわしくえた。

「私は……怖かったのよ」

膝を抱え、に額を擦りつけるようにして、私は嗚咽の混ざった声を絞りした。

「怖くてたまらなかったの。俊平さん……誰かに借りを作るのが、ぬほど怖かったの……!」

「……なぜだ。なぜそこまで恐れるんだ」

俊平のが、私の界の端に歩み寄ってきた。彼は私を見ろしていた。その声の角が、わずかに削ぎ落とされていた。

歳のときだったの」

私の記憶の蓋が、完全に壊れてれた。

「実のリビングに、黒い靴を履いた見らぬ男たちが何がり込んできた。父が事業で連帯保証になって、数千万円の借を背負ったよ。具に、に、私の勉机にまで、黄と赤の差し押さえのが貼られた」

あの景は、歳を過ぎた今でも、てくる。

「父はに額を擦りつけて、男たちの靴を舐めるようにして謝っていた。あんなに威厳があって、優しかった父が、ただの『を返せない』というだけで、としての尊厳をすべて奪われて、虫けらのように扱われていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: