みかん小説
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"一万八千円の伝票" 第7話

私は壁にそっとを添えながら、音もなく階段をり、階のロビーへとめた。

普通の規模な宿泊施設であれば、夜であってもフロントには必ず当直の夜勤スタッフが名は常駐しているはずだ。夜の急な体調良や、万が災などの緊急事態に即座に対応するためである。それは、の命とらぎを預かる宿として、絶対に譲ってはならない最限の責任だ。

しかし、広々としたフロントカウンターの内側には、っ子いなかった。 無のカウンターのには、『御用の方はベルを鳴らしてください』と殴りきされたさなアクリル札が、ぽつんと置かれているだけだった。そしてそのすぐ横には、信じられないことに、当の宿泊客全員の氏名、所、話番号が記された分い宿泊名簿台帳が、かれたまま無防備に放置されていたのだ。個報の管理すら、完全に放棄されていた。

私は息を詰め、カウンター越しにを乗りしてその名簿を覗き込んだ。 灯のかりが差し込む、台帳のページを見つめると、いくつかの部番号の横に、赤インクのボールペンで奇妙な「★」印がつけられているのが目に入った。

その赤いマークは、昼、私がレストランで目撃した、あの怯え切っていた老夫婦の部番号の横にも、くっきりと付けられていた。

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そして――ページの程にかれた、私の旧姓である「佐藤かず子」という名の横にも、まったく同じ赤い印が、乱暴に殴りきされていたのだ。

このマークが何をしているのか。 考えるまでもなく、昼に私に突きつけられた、あの千円の法な伝票が何よりの答えだった。 なりの齢者、旅で文句を言わなさそうなしい客、旅慣れておらずトラブルを恐れる気のそうな々――彼らはチェックインの段階でそうした客を徹に選別し、ターゲットとしてマークしていたのだ。理尽な請求を突きつけられても、恥ずかしさや恐怖から警察汰を恐れ、黙って財布をいて逃げるようにっていく客たちを、組織い物にしていたのである。

名簿には、過のページにも無数の赤い印が散らばっていた。 これほどまでにくの善良なお客様が、夫が命を削って守ってきたこの所で、理尽に踏みにじられ、悔し涙を流しながらっていったのかとうと、私の胸の奥底で、煮えたぎるような静かなりが燃え広がるのをじた。私たちがの歳をかけて紡いできた「信頼」という文字が、元から音をてて崩れっていくようだった。

「――だから言ったじゃないですかぁ! あんなボケたばあさん、適当にあしらっておけばいいんですよぉ」

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静まり返っていたロビーの静寂を破り、突如として、甲い女の嬌声が響き渡った。 声の主は、昼、私に酷な態度をとったレストランのだった。その声は、フロントカウンターのすぐ奥にある、支配の扉の隙から漏れ聞こえていた。ドアが数センチほどいており、そこから黄内のかりが細く廊に漏れしている。

私は息を殺し、ロビーの太い円柱のを滑り込ませて、ゆっくりと扉へとづいた。

「しっ! 声がきいぞ、美保。……あいつは、ただのばあさんじゃない。このホテルの、応はオーナーなんだ」

支配の、苛ちと焦燥の混じったい声が続いた。

「えぇー? オーナーって、あのボロい着てた、みすぼらしいがぁ? 冗談でしょう? 全然そんなに見えなかったけど」

「俺だって肝をやしたよ。施設でずっと寝たきりだと聞いていたからな。だが、配することはない。どうせ体もガタが来ている。何も分かっちゃいないさ」

カチン、と氷とグラスがぶつかりう、軽やかな音がした。 勤務の、しかも夜の職で、級な酒を酌み交わしているようだった。

「でもぉ、あの伝票の件、警察汰にされたりしたらヤバくないですかぁ?」

が甘えるような、ねっとりとした声で尋ねる。

「フン、バレるわけがないだろう。

うちの特別料システムは、最初からクレームを言ってこなさそうな寄りや、しい客を厳選して仕掛けているんだ。

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