"一万八千円の伝票" 第8話
万が何か言われても、『違いのサービス料だ』と押し通せば警察だって民事介入でをせんよ」
支配は、自げに喉を鳴らして笑った。
「それに、客から巻きげた裏は、ホテルの帳簿を通さず、俺の個会社の座に綺麗に移してある。あのばあさんがいくら怪しんだところで、決定な証拠なんてどこにも残っちゃいないのさ」
「さすが支配! 頼もしい〜! でもぉ、くあの資のファンドにこのホテル、売っちゃいましょうよぉ。こんな奥の古臭いホテル、もううんざりです。売却のおが入ったら、約束通り、私にあのブランドのバッグ買ってくれますよね?」
「ああ、もちろんだ。来週の曜には、すべての契約がまとまる筈になっている。そうしたら、こんなカビのえた田舎の宿とはおさらばだ。をにして、美い汁を吸えばいい」
の品で劣な笑い声が、夜のロビーにどこまでもく反響した。
私はたい壁にのひらを押し当て、暗いを見つめた。 夫の健が、命を削り、爪にを灯すようにして守り抜いてきた切な所。この者たちは、それを体何だとっているのか。 通い続けてくださる切なお客様を欺き、私腹を肥やすための具として弄び、最はゴミのように国資本へ売りばす――。激しいりよりも先に、底れないいしみが胸を突きげてきた。
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だが、ここで涙を流している暇など秒たりともない。 の会話から、極めてな事実が判した。「裏は個の別座に移してある」――つまり、このホテルのどこかに、正規の帳簿とは別に、正なの流れを克に記録した「裏帳簿」が必ずするはずなのだ。
私は柱のから線を巡らせ、無のフロントカウンターの内側へと目を凝らした。 受付台の元に置かれたきなプラスチックのゴミ箱のに、く丸められた屑が何枚も無造作に捨てられているのが見えた。
(今しかない……)
が酒に酔い痴れ、支配で油断しきっている今を逃せば、度とチャンスはない。 私は音をてずにカウンターの裏へと回り込み、をかがめてゴミ箱のにを伸ばした。番に捨てられていた屑を拾いげ、慎にシワを伸ばして広げてみる。 それは、数のホテルの正式な売伝票の束だった。だが、どの伝票も売額の数字が修正液や線で自然にき換えられた形跡があった。
さらにゴミ箱の奥く、底の方へと指を潜り込ませると、固くさく丸められた枚のが指先に触れた。 引きし、破れないように注く広げてみる。――それは、方の振込細のコピーだった。 振込元の名義はホテルではなく、「浩司」
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という支配個の名義。そして、振込先の座へ送されていた額の欄には、数百万円という、ただの雇われ支配がかせるはずのない莫な数字が印字されていた。
私は息を呑み、その細のコピーをさく折り畳むと、カーディガンのい内ポケットへと滑り込ませた。 これが、彼らの正を証する最初の、だが決定な証拠の端緒だった。
そのだった。
「――誰か、いるの?」
支配のドアがギイと軋んだ音をててきくいた。 カツ、カツ、カツと、の鋭いハイヒールの音が、フロントカウンターへ向かって真っ直ぐに歩み寄ってくる。
逃げるなど、どこにもなかった。 私はを縮め、フロントカウンターの暗い元、類棚の隙にを投げすようにして滑り込ませた。 ハイヒールの音が、目との先、カウンターのすぐ側でピタリと止まる。
私は臓の激しい鼓を抑えつけるように、ポケットのの夫の万を両でく、く握りしめた。息を吸うことすら止め、たいに額を擦りつける。
だが、音はカウンターの内側へは回り込まず、ロビーの正面玄関の方へと向きを変えてざかっていった。 張り詰めていた空気がわずかに緩み、さく息を吐きそうとした――その刹だった。
「ちょっと! ……あなた、こんな夜に何してるのよ!?」
の、氷のようにたく張り詰めた声が、暗いロビーに鋭く突き刺さった。
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