"一万八千円の伝票" 第10話
かつて健がきていた頃、このホテルで働く従業員たちは皆、族同然だった。誰もがお客様のぶ顔を誇りとし、胸を張って働いていた。 だが、という男は、この純粋な若い従業員のまで恐怖で踏みにじり、破壊してしまったのだ。その罪のさに、改めてりが込みげた。
林さんは袖で涙を拭うと、胸に抱きしめていた提げバッグのファスナーをけ、冊の古いノートを取りした。
「これ……見てください。私が、フロントの目を盗んで、しずつき写してきたものです……」
差しされたノートの表には、何の飾り文字もない。 私はそれを受け取り、ロビーの非常灯のかりを頼りに、擦れたのページをめくった。
そこには、几帳面な文字で、付、宿泊客の氏名、部番号、そして正規の料とはかけれた法な請求額が、克に記録されていた。
「それは……さんがフロントの庫の裏で管理している、『裏マニュアル』の写しです。カモにするお客様の選び方や、クレームを言われたに相を脅すための言い逃れの順が、全部いてあります……」
林さんの声は震えていたが、その差しは真実を伝えようと必だった。 ページをめくると、『齢者の客』『気のそうな老夫婦』といった酷な単語が並び、その横には『正規料の倍を請求、名目は特別サービス料で処理』という、おぞましい指示が記されていた。
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「彼らはこうして、組織に客からを騙し取っていたのですね」
「はい……。集めた現は、ホテルの庫には絶対に入れず、毎晩、支配が自分の革鞄に入れて持ち帰っています……」
すべてが繋がった。 フロントのゴミ箱に捨てられていた振込細と、このノートの記録。彼らは客から巻きげた現をそのまま個座へ還流させ、私腹を肥やしていたのだ。
ノートの最のページに目を落とした私は、息を呑んだ。 そこには、今の付と共に、昼のレストランで怯えていたあの老夫婦の名が記されていた。
『結婚周・婚式のお祝い』――。 林さんのメモにはそうき添えられていた。
本来であれば、ホテル詰めの板が腕を振るい、からの祝いの束と赤飯を無償でおしすべき、最級のおもてなしでお迎えすべきお客様だ。健がきていれば、違いなく満面の笑みでそうしていただろう。 『の切な節目に、うちのような宿を選んでくださったんだ。しでも華を添えて差しげたいじゃないか』 そう言って目を細める夫の温かい笑顔が、の奥にありありと蘇ってきた。
だが、ノートにかれていたのは、血も涙もない悪魔の所業だった。 『特別への制変更名目。のチェックアウト、万円請求のこと』 赤いペンで、殴りきされていた。
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泊でせいぜい万円程度の客である。それに濡れを着せ、万円ものを騙し取ろうとしているのだ。
私は静かにノートを閉じた。 胸の奥で、静かな、だが決して消えることのない業が燃え盛っていた。
「林さん。このノート、私が預かっても構いませんか?」
「はい……! どうか、どうかこのホテルを助けてください……!」
「ええ、約束します。もうすぐ、すべてが終わりますから」
私は林さんを裏から慎に見送った、証拠を胸に抱いて客へ戻ろうと、再び階段へと向かった。 しかし、階の踊りに差し掛かったその、私のはピタリと止まった。
階の奥、あの老夫婦が宿泊している特別のドアのに、が蠢いていたのだ。 暗い廊の先で、その物は周囲をキョロキョロと警戒しながら、に持ったマスターキーを、音もなく鍵穴に差し込んでいた。
だった。
夜にお客様が寝静まっている客の鍵を、無断でける――宿泊業に携わる者として、万に値する最のタブーである。 私は壁のに息を殺して張り付き、彼女のを凝した。
は部のへは完全に入らず、いたドアの隙から腕だけを差し入れた。 そのには、の入っていない、空になった級ワインのフルボトルが握られていた。彼女はそれを、客の入りの踏み込みのへ、音をてずにコトリと置いたのだ。
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