"一万八千円の伝票" 第14話
「……さん。先ほどの揉め事は何ですか?」
田氏のくややかな声が響いた。
「契約の直に、あのような穏なトラブルを起こされては極めて困ります。コンプライアンスのな瑕疵になりかねませんよ」
支配は額にを当て、平で言い訳を並べてていた。
「も、申し訳ございません! ですがごください、売実績は面でご報告申しげた通り、比百パーセントの急成を記録しております! 数字の面では、貴社のクライアントである投資ファンド様にも必ずやご満いただけるはずです!」
「数字の辻褄は結構。……問題は、現の名義である正規オーナーの件です」
田氏が鞄から枚の契約類を取りし、ガラステーブルのに滑らせた。
「『佐藤かず子』――彼女の正式な事業譲渡への自署と、実印の捺印。これが期までに揃わなければ、この買収案件は即座に撤回となります」
「ご配には及びません!」
支配は醜悪な笑みを浮かべ、胸を叩いた。
「あのばあさんは今も奥の療養施設で寝たきり、認症もんで判断力など皆無です。『施設の入院費用を支払うための委任状だ』とでも言いくるめれば、も見ずにホイホイと実印を押しますよ」
「……来週の曜が最終期限です。それまでに、必ず完璧な類を揃えておいてください」
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「ええ、すべて私に任せてください! すべては、私の計画通りにんでおりますから!」
彼らの会話の言言が、私の朶を打った。 夫の遺産を売り払い、そのを懐に入れて逃げおおせるために、私を都の良い認症の老婆として利用し尽くそうとしている。
だが、は決定な見落としを犯していた。 彼が「寝たきりのボケ老」だと信じ込んでいる本は、今、彼の目との先の柱のにち、その汚い企みの全貌を徹に記録しているのだ。
タイムリミットは、来週の曜。 それまでに、彼らの逃げを完全に塞ぐ、決定な「物証拠」を揃えなければならない。
私は音を忍ばせて階段をがり、客へと戻った。 隠し持っていた古い携帯話を取りし、夫の代から来の付きいがある顧問弁護士・林先の番号を呼びした。
プルル、と数回のコール音の、受話器の向こうから聞き慣れたな声が響いた。
『――はい、林法律事務所です』
「林先……ご無汰しております。佐藤かず子です」
『……! かず子さん!? お体は丈夫なのですか!?』
「ええ、丈夫です。先……至急、お願いしたいことがあるのです」
私は声を潜め、こので集めた報、資への正売却計画、そして客から巻きげた裏のを簡潔に伝えた。
「……彼らを法に完全に追い詰めるには、個の裏ルートを証する『裏帳簿』の原本が必です」
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『承いたしました。私の方でも、奴が設している個座の審な資移を直ちに洗いします。……かず子さん、決して無理はなさらないでくださいよ』
通話を終えた私は、く息を吐きした。 元にある断片なメモや振込細だけでは、法廷や警察で「事務なミスだ」と言い逃れされる恐れがある。 自の跡でかれた、かぬの流れの記録――それをに入れるための、危険な罠を仕掛ける決を固めた。
そのの夜、私はわざと夕の混雑を幅にした午過ぎに、階のレストランの簾をくぐった。
広い内は閑散としており、くの席で数組の客が無言で箸をかしているだけだった。昼のような活気はなく、まるで廃墟のような寒々しい空気が漂っている。
案内されたのは、昨と同じ、隅の目たない掛けのテーブル席だった。 そして、おのグラスを乱暴にテーブルに音をてて置きながら現れたのは、案の定、だった。
「……あらぁ? おばあちゃん、まだこのホテルにいたんですかぁ?」
彼女はメニュー表を放りすように置き、あからさまな嘲笑を浮かべて私を見ろした。昨夜、階の特別のでワインボトルの仕込みをとがめられたことを、根に持っているのはだった。
「ええ、もうしばらく滞させていただくつもりですよ」
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