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"一万八千円の伝票" 第16話

私は壁にを寄せ、息を殺しながら忍びづいた。 ドアの隙から、を澄ます。 カチカチカチと卓を激しく叩く音、そしてをめくる擦れた音が、規則に漏れ聞こえてきた。

からを覗き込むと、支配がデスクのスタンドライトのかりので、血った目を類にらせていた。 彼のにはつのファイルがかれていた。つは、税務申告用の正規の売台帳。そしてもうつは、昼に見た、あの赤いファイルだった。

彼は卓の数値を弾きながら、独り言を呟いた。

「よし……今の特別料の回収分は、これで全部だな」

はニヤリと卑しい笑みを浮かべると、机の最段の引きしから、冊のい黒革の帳を取りした。 そして、その帳をき、万らせてきで数字をき込んでいった。

(――違いない。あのにあるのが、裏帳簿だ!)

帳への記入を終えたは、それを赤いファイルのに挟み込むと、再び机の最段の引きしへと仕い込み、鍵穴に鍵を差し込んでカチリと施錠した。 彼はきく伸びをし、煙の箱をポケットに突っ込むと、子からがった。

私は素を翻し、フロントカウンターのへとを滑り込ませた。 数秒、支配のドアがき、混じりに通用の方へと歩いていく音が聞こえた。

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へ煙を吸いにったのだ。戻ってくるまでのは、せいぜい分から分。

チャンスは、今この瞬しかなかった。

私はカウンターをし、無の支配へと滑り込んだ。 黒檀の巨なデスク。その最段の引きしには、しっかりと頑丈なシリンダー錠がりている。

だが、私はっていた。 このホテルを創業した夫の健は、万が鍵を紛失して業務に支障がないよう、支配デスクのスペアキーを、必ず『最段の引きしの裏側』に力な布テープで貼り付けて保管していたのだ。 が机を調した際、先代の習慣を踏襲して同じ所に予備鍵を隠していれば――。

私は祈るようないで最段の引きしを引き抜き、その裏底へと指をわせた。 指先が、たい属の突起に触れた。

(あった……!)

セロハンテープで留められていたさな鍵を剥ぎ取り、震えるで最段の鍵穴へと差し込んだ。 カチリ、とさな音が響き、引きしが滑らかにいた。

には、あの赤いファイルが横たわっていた。 表をめくると、資系ファンドとの事業譲渡契約のドラフト、そしてそのに、あの黒革の帳が挟まれていた。

ページをいた私の目に、付と共に克に記録された、正な着の記録がび込んできた。 の『特別変更 万円』の記載。

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そして――今付の最には、の丸みを帯びた特徴跡で、はっきりとこう記されていたのだ。

『かけそば特別徴収 、〇〇〇円(回収済・個座プール)』

決定な証拠だった。 言い逃れの余など微もない、横領と詐欺のかぬ物証拠。

私はカーディガンのポケットからスマートフォンを取りし、画面が反射しないよう角度を調しながら、そのページを鮮に撮した。続けて、譲渡契約の主な条項、過数ヶにわたる正送のメモが記されたページも、次々とレンズに収めていく。

が激しく震え、写真がブレそうになるのを、奥歯を噛み締めて必に堪えた。

「――おい。何をしている?」

突如として、背から氷のようにたい、いドスの利いた声が部に響き渡った。

私の臓が、がった。

「――何をしている、と聞いているんだ」

から突き刺さるような酷な声に、私の全の血が凍りついた。 ゆっくりと振り返ると、支配の入りのドア枠に寄りかかるようにして、支配っていた。

へ煙を吸いにたはずの男が、なぜこれほどく戻ってきたのか。 そのには、まだの落ちていない、のついた煙が挟まれていた。換気扇のに吹かれて煙が細くたなびく、彼の濁った瞳が、獲物を仕留めんとする爬虫類のように細められ、私を射抜いていた。

私は咄嗟にスマートフォンをカーディガンのいポケットへと滑り込ませ、いたままの引きしのちはだかるようにして、両を背に回した。

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