みかん小説
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"一万八千円の伝票" 第18話

静かな、だが決して消えることのない炎が、肉体の痛みを忘れさせてくれた。

に戻った私は、すぐに内鍵をに掛け、ドアチェーンをしっかりと掛けた。 ベッドの端に倒れ込むように腰をろし、震えるでカーディガンのポケットからスマートフォンを引きした。

画面のロックを解除し、写真フォルダをく。 鮮な液晶のが、暗い部で私の顔を青く照らしした。

枚、枚、枚――。 そこには、あの黒革の帳のページが、ブレひとつなく完璧に記録されていた。 『かけそば特別徴収 、〇〇〇円』の文字。過数ヶにわたり、組織増し請求されてきた数件に及ぶ顧客リストと被害額の数々。そして、の個名義の隠し座番号と、そこへ送された累計数千万円に及ぶ横領の記録。

「……撮れている。完璧に……」

私は堵の息を漏らすと同に、すぐさま林弁護士のメールアドレス宛に、すべての写真データを添付した。 通信バーがゆっくりとんでいく数秒が、まるで永のようにじられた。

『決定な証拠をに入れました。の朝番で、ホテルへお越しください』

いメッセージを添えて送信ボタンを押すと、ものの分もしないうちに、画面に返信の通が灯った。林先もまた、私がくことを予期して、眠らずに待っていてくれたのだ。

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『データ、すべて確認いたしました。これ以ない完璧な証拠です。朝、直ちにそちらへ向かいます。ご無事で』

そのい文面を目にした瞬、張り詰めていた糸がふっと緩み、目からい涙がポロポロと零れ落ちた。 ったのだ。これでようやく、奴らを法のへと引きずりすことができる。

私はベッドのサイドテーブルに置かれた、夫の万をそっとに取った。 え切っていた真鍮の軸が、私ののひらのを吸って、じわりと温かくなっていく。

だが、堵するのはまだかった。 の朝、は自らが配した弁護士をロビーに呼びつけ、力ずくで私に譲渡契約への調印を迫るつもりだ。奴らは、私が証拠をに入れたことなどにもっていない。ただの無力な老いぼれだと侮り切っている。

が完全に油断し、勝利を確信したその瞬こそが――最の反撃の好なのだ。

私は涙を拭い、洗面所へと向かった。 鏡に映る自分の顔は、疲労で青ざめ、刻まれた皺はく老け込んで見えた。けれど、その瞳の奥には、かつて夫と共に数々の試練を乗り越えてきた、の「経営者」としての凛としたが宿っていた。

もう、泣くのは終わりだ。 は、このホテルの命運を決する戦いのになる。

私は鏡のの自分にさく頷き、夫がプレゼントしてくれた、古いに取った。

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唇に微かに赤を差す。病に倒れ、を待つだけだった老婆の顔から、誇りき宿の女将の顔へと、輪郭が引き締まっていくのが分かった。

窓のから、み始めた朝の気配と共に、鳥たちの囀りが聞こえ始めていた。

朝の陽が、ロビーの吹き抜けのガラス窓からり注いでいた。 しかし、その清々しい朝のとは裏腹に、ロビーには昨夜にも増して異様な、張り詰めた空気が漂っていた。

私が階段をゆっくりとりていくと、ロビーの央にある応接セットの周囲には、すでに数の男女が集まっていた。 見慣れない濃紺のスーツを着たの男性。怜悧そうな鏡をらせ、革のビジネスバッグを膝に置いている。支配京から呼び寄せたという、買収続き専の息のかかった弁護士たちだろう。

その傍らには、レストランの制を着たが、腕を組んで勝ち誇ったような笑みを浮かべてっていた。今このでホテルが正式に売却され、自分ものおこぼれに預かれると信じて疑っていないのだ。

階段をりてくる私の姿を認めるや否や、支配角をいやらしく歪め、芝居がかったきな声で言った。

「おはようございます、オーナー。……昨夜は、よく眠れましたかな?」

その声の裏には、「もう逃げはないぞ」というあからさまな脅迫のが滲んでいた。

だが、私は線を逸らすことなく、彼の目を真っ直ぐに見据え返した。

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