"一万八千円の伝票" 第22話
「嘘かどうかは、警察の捜査との元帳が証してくれるでしょう。……そして、もうつ」
林先が私に静かに目配せをした。 私は頷き、カーディガンのポケットからスマートフォンを取りすと、昨夜撮したあの鮮な写真を画面に表示させ、京の弁護士たちの目のに突きした。
「――これは……裏帳簿の写真ですか!?」
配の弁護士が息を呑んだ。 画面には、支配の独特な丸文字の跡で克に記録された、々しい着の記録が写しされていた。
『特別架空変更 万円』 『かけそば特別徴収 、〇〇〇円(回収済・個座プール)』
「な……お、いつのにそれを……ッ!?」
は顔面を蒼にし、獣のような咆哮をげながら私のスマートフォンを奪しようとを伸ばした。 だが、林先がその太い首を、バチンッ!と凄まじい力で叩き落とした。
「おやめなさい! その画像データは、すでに私の法律事務所のクラウドサーバーにもバックアップが完しています。今ここで端末を壊したところで、何の証滅にもなりませんよ」
は打たれた首を押さえ、幽霊にでも会ったかのように、千鳥でずさりした。 全がカタカタと震え、膝の震えが止まらない。先ほどまでの傲な支配の姿はどこにもなく、そこにはただの、悪事を暴かれて追い詰められたれな犯罪者の姿があるだけだった。
広告
レストランの入りで見ていたも、をぽかんとけたまま、腰を抜かしたようにそのにへたり込んでいた。
「京の先方」
私は京から来たの弁護士に向き直り、凛とした声で告げた。
「貴方方は、この支配に完全に騙されていたのですよ。彼はこのホテルを図に赤字に見せかけ、その裏で、何もらない善良な齢のお客様や旅のお客様から当な法料を脅し取っていました。そしてその巨額の裏をすべて個座に着したで、このホテルそのものを売りばそうとしていたのです」
京のの弁護士は、激しいりと侮蔑の籠もった線でを睨みつけた。
「……支配。私たちは、正規の事業譲渡の依頼だと聞いて引き受けたのです。このような、業務横領および組織詐欺に加担するつもりは毛ありません!」
配の弁護士が吐き捨てるように言った。
「本件の委任契約は、今この瞬をもって即解除させていただきます。なお、これまでの着および違約については、、貴方個宛てに厳格に請求いたしますので、そのおつもりで」
の弁護士は類を乱暴に鞄に詰め込むと、瞥もくれることなく、に正面玄関からちっていった。
方だとっていたたちに背を向けられ、は広なロビーの真んに、ただ取り残された。
広告
額からは滝のような汗が流れ落ち、焦点の定まらない瞳で、私と林先を交互に見つめている。
だが――私の戦いは、まだこれで終わりではなかった。 彼が犯した最の罪は、単なる横領や詐欺などの銭問題ではない。 き夫がの命を削って守り抜いてきたこの所を侮辱し、純粋な従業員たちのを恐怖で踏みにじった罪――その報いを、彼自に骨の髄までいらせなければならなかった。
「さん。あなたには……まだ、召しがっていただかなければならないものがあります」
私の静かな言葉に、はビクッと肩をねがらせた。
「な……何だと? もういいだろう! 俺は……俺は嵌められたんだッ!」
が往際悪く叫んだ、そのだった。
ウィーン、と正面玄関の自ドアが再びき、ロビーのから、確かな、力い複数の音がづいてきた。 その顔ぶれを目にした瞬、支配の喉から、今度こそ完全な絶望の鳴が漏れた。
静まり返ったロビーに入ってきた数の。 その先にっていたのは、糊の効いた真っな調理にを包んだ、背筋の伸びた初老の男性だった。
「……ま、松島……板……」
のから、掠れた声が漏れ落ちた。
松島さんは、私のき夫・健と共に、以にわたってこのホテルの厨を命懸けで守り続けてくれた、先代の料理だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 33 -
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 26 -
完結第18話
清掃員のヤスリと50万フランの契約
「清掃員?なぜこんな奴を呼んだんだ?」――スイス・チューリッヒ郊外の機械工場で、最低賃金の夜勤清掃員として働く私・鈴木誠は、誰にも知られず古い12番機の異音を聞き分け、たった3分の手作業で精度を劇的に改善してしまう。4日後、3000個の歯車が99.9%の合格率を叩き出し、ドイツ本社の首席技術専門家ハインリヒとCEO秋山凛が原因究明のため工場へ乗り込んできた。防犯映像から私の仕業だと判明すると、専門家たちは「ただの清掃員にできるはずがない」と騒然。さらに別の不調機をその場で直したことで、私がかつて日本の宇宙航空産業を支え、“国宝級の匠”と呼ばれた特級職人だった過去まで掘り起こされる。なぜそんな男が異国で廃液を捨てているのか――事故の責任を背負って表舞台を去った私に、秋山は人生を変える一枚の契約書を差し出す。職場逆転2.6万字5 257 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 51 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 11 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 83 -
完結第12話
社長夫人と平社員の妻
夫が勤める製造会社の先代社長の遺児であり、全株式の六割を握る筆頭株主である白石遥。彼女はその正体を隠し、現場社員の妻として慎ましく暮らしていた。しかし、先代の跡を継いだ新社長の妻・藤崎麗華は、夫が平社員である遥を見下し、婦人会の席で髪を掴んで「奴隷」と罵倒する。耐えかねた遥が「では、社長を解任します」と告げると、麗華はあざ笑うのだった。数日後、遥の名の入った「臨時株主総会招集請求書」が会社に届き、夫が密かに集めていた四千万円の不正流用の証拠が突きつけられる。窮地に陥った社長夫婦の前に、本当の支配者の正体が暴かれるとき、冷酷な因果応報の幕が上がる。職場逆転|因果応報1.8万字5 141 -
完結第22話
恩人弁護士の不可解な書類
満員電車の切り取り動画で炎上し、派遣先を不当解雇された私を、着手金ゼロで救ってくれたのは小さな事務所の弁護士だった。彼の尽力で示談を勝ち取り日常を取り戻した二ヶ月後、私は元上司のパワハラを訴えた見知らぬ後輩の裁判資料を目にする。そこには、私が弁護士の相談室で泣きながら話したはずの告白が、そのまま証拠として並んでいた。震える手で開いたその裁判記録の送達先には、私を救った恩人弁護士の事務所名が記されていた。職場逆転|因果応報|裡切られた|怒り3.4万字5 257 -
完結第10話
月給22万円の「給料泥棒」と50億円のAI
「首にしとくから一生寝とけ。高卒の給料泥棒が」――交通事故で全身に重傷を負い、病室に運ばれた私・み月りんへ届いたのは、8年間耐えてきた上司・気藤からの非情なメッセージだった。難病の母の治療費を払うため、月給22万円でも「無能」と罵られながら働き続けてきた私。だが会社の誰も知らなかった。顧客管理、会計、在庫を結ぶ基幹システムを一人で設計し、独自AIを開発、20件以上の特許まで持つ本当の実力を。しかも気藤は、その成果を自分の手柄として奪い続けていた。もう十分だ。私は病室から「本日付けで退職します」とだけ返信し、会社との連絡をすべて断つ。翌朝、社内の全システムが機能しなくなり、誰一人として復旧できない事態に。そこで初めて会社は、自分たちが“給料泥棒”と嘲った女性が何を支えていたのかを思い知ることになる――。職場逆転1.6万字5 1274 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 43