"一万八千円の伝票" 第28話
正面玄関ので、パトカーの赤灯が激しく回転し、けたたましいサイレンの音がのあいに霊した。 そして、その音は徐々にざかり、やがて完全な静寂がホテルを包み込んだ。
悪のようなのが、ついにこの所からっていったのだ。
パトカーの音が完全に消えった、私は肺の底から、く、い息を吐きした。 張り詰めていた緊張が解け、瞬だけの力が抜けそうになったが、私はグッと奥歯を噛み締め、背筋を伸ばした。
悪を追いして終わりではない。 ここからが、本当の、私たちの再発なのだから。
私はレストランに残された全員に向き直り、々と、腰を折ってをげた。
「皆様……にわたり、私が病に倒れて現をにし、このような取り返しのつかない事態を招いてしまったこと……オーナーとして、よりくお詫び申しげます」
声が微かに震えた。だが、涙は流さなかった。 涙は、このホテルが本当の温もりを取り戻し、お客様のからの笑顔を見届けたまで、決して流さないとに決めていた。
「林さん」
私が名を呼ぶと、林さんはビクッと肩を震わせ、おずおずとにみた。
「あの匿名のをいてくださって、本当にありがとうございました。あなたのその勇気がなければ、このホテルは今、永に失われていました。
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あなたこそが、このホテルの最の恩です」
私の言葉に、林さんは堪えきれずに両で顔を覆い、しゃくりげて泣き崩れた。 周囲の若いスタッフたちも、もらい泣きをしながら肩を抱きっている。彼女たちもまた、の恐怖政治ので、良を引き裂かれながら耐え忍んできた被害者だったのだ。
私は次に、厨のにつ松島板と、元従業員たちに向き直った。
「松島板……そして、集まってくださった皆様。あまりにも勝で図々しいお願いであることは、々承しております。……ですが、もう度だけ、私と緒にこのホテルをて直していただけないでしょうか。夫がした、あの温かい所を取り戻すために……」
をげたまま、私は固唾を呑んで彼らの返答を待った。 度理尽に追いされた所に再び戻ることが、どれほど困難なことであるか、痛いほど分かっていたからだ。
しかし――私のに届いたのは、力くを踏みしめる音だった。 顔をげると、松島板が私の目のにち、その双眸にい涙を湛えてっていた。
「……をげてください、女将さん」
松島板は、昔と変わらぬ懐かしい呼び名で、私を呼んでくれた。
「俺たちは……このを、ずっと待っていたんです。将が遺してくれたあの厨を、俺たち以の誰が守るっていうんですか!」
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板が力くそう言って振り返ると、ろに並んでいた元従業員たちも、斉に涙を拭いながら力く頷いた。若いスタッフたちも、ベテランたちの姿を見つめ、希望に満ちた瞳でを見据えている。 悪によって引き裂かれていたつの世代が、今、再びつの族として固く結びわされた瞬だった。
私の胸に、言葉にならないいものが込みげてきた。 ポケットのの、夫の万をそっと握りしめる。 『ホテルはね、そこで働くのを映す鏡なんだよ、かず子』――健の優しい声が、の奥で静かに微笑んでいた。
「……あのう」
控えめな、優しい声がレストランの入りから響いた。 渡辺のおばあさんが、ハンカチで目元を拭いながら、穏やかな笑顔を浮かべてっていた。
「私たちは……の朝まで宿泊させていただく予定なのですが……の朝ごはんには、あの美しいお汁のお噌汁を、いただくことはできますでしょうか?」
その温かい問いかけに、松島板は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「ええ! もちろんでございますとも! 本温かい、最のお噌汁をご用させていただきますよ!」
レストランのに、ぶりとなる、るく温かい笑い声が満ち溢れた。
窓のを見げれば、の夕暮れが々を茜に染めげていた。 たく淀んでいたホテルの空気は完全に消えり、そこには穏やかで、力い希望のが満ち始めていた。
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