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"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第12話

の激しい声が、静かな農の朝に響き渡る。 所の々の目が、好奇と憐憫を含んで叔母さんに注がれる。 叔母さんは弁解しなかった。 ただ唇を噛み締め、げた。

「……申し訳ありません」

そのさく縮こまった背を見た瞬、私の胸ので、何かが音をてて爆発した。

「いい加減にしてよ!」

私の喉から、自分でも驚くほど鋭い号がしていた。 母も、男伯父さんも、ぎょっとして私を見た。

「茜……? あんた、何を……」

「お母さんも伯父さんも、まず探すべきはおばあちゃんでしょ!? どうして真っ先に淳子叔母さんを鳴りつけるの!? 叔母さんを責める暇があったら、自分ので探しにきなさいよ!」

母が息を呑み、怯んだように退した。

その、敷の奥――い茂る裏庭の方から、玉砂利を踏む鈍い音が聞こえた。 い、ブツブツと途切れるような独り言とともに。

「……まだ、青いねえ。……赤くならんねえ……」

全員が斉に振り返った。

裏庭の庭菜園のに、祖母がっていた。 履き古した便所サンダルを履き、だらけの素。 着ている寝巻きの裾には、枯れた雑の種が無数にこびりついていた。

祖母は、支柱に絡みついて茶く枯れ果てたトマトの蔓を、震える両で必にまさぐっていた。 爪のには黒いが詰まり、の甲には乾いた引っかき傷がいくつもっている。

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「……赤くならんと、京に送れん。……男が、トマトが好きだから……く、赤くならんと……」

そこには、もはや実などつもついていなかった。 にとっくに枯れ落ち、残っているのはカラカラに乾いた茶い茎と、にまみれたプラスチックの支柱だけだ。 祖母はそれを、実があるとい込んでいるのか、何度も、何度も、空っぽの空を撫でていた。

「お母さん……」

母が、絞りすような鳴を漏らした。 男伯父さんも言葉を失い、喉を痙攣させるようにしてち尽くしている。

自分たちが毎元旦に賀状で読まされていた、あの言葉。 『今も裏の畑でトマトがたくさん実りました。』 その甘やかなの裏側にあった現実が、今、にまみれた歳の老の姿となって、の網膜に焼き付けられていた。

「おばあちゃん」

私が駆け寄ると、祖母はふっと線を泳がせ、虚ろな目を私に向けた。

「……誰だい? ……ああ、あんた、所の子かい。……トマト、見てごらん。今はまだ、赤くならんのよ。……送ってやらなきゃならんのに、男に……」

祖母の焦点はっていなかった。 自分が何をしているのか、なぜ庭にいるのか、台所で鍋が焦げていたことすら、何つ理解していなかった。

淳子叔母さんが静かに歩み寄り、祖母のだらけの肩に、自分のカーディガンを優しく羽織らせた。

「お義母さん。

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に入りましょう。たくなっていますよ」

「……あ、ああ、淳子さんかい」 祖母は叔母さんの顔を見ると、怯えたように肩を竦ませた。

らないでおくれよ。……私しゃ、ちょっと畑を見に来ただけなんだよ……」

っていませんよ。お茶を淹れますから、に入りましょうね」

叔母さんの慣れた、淡々とした誘導に、祖母はしく従った。 子供のようにを引かれ、濡れた縁側から座敷へとがっていく。

その連の景を、母と伯父は、ただ呆然と見送ることしかできなかった。

焦げた鍋は流しに片付けられ、換気扇がけたたましい音をてて回っていた。 茶のには、苦しい沈した空気がち込めている。

濡れ雑巾でを拭かれた祖母は、壁際の角に座らされ、湯呑みを両で抱えてさくなっていた。 先ほどまでの虚ろな状態から識が戻ったのか、居並ぶ親族たちの険悪な空気を敏に察し、怯えたように線を落としている。

円卓を囲んでいたのは、だった。 座に腕を組んで座る男伯父さん。 その隣で、ハンカチを握りしめて青ざめている母・恵子。 畑から作業着のまま駆けつけ、居悪そうに俯いている次男の叔父さん。 私の隣に、背筋を伸ばして静かに座る淳子叔母さん。 そして、私。

沈黙を破ったのは、やはり男伯父さんだった。

咳払いをつし、く威圧な声で切りした。

「……。淳子さん。さっきの母さんの様子を見たが、これはもう、ただの物忘れというレベルじゃないぞ」

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